大判例

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東京地方裁判所 昭和36年(ワ)4380号 判決

原告

国鉄動力車労働組合

右代表者

目黒 今朝次郎

外一二名

右原告ら訴訟代理人

内藤功

外二名

被告

日本国有鉄道

右代表者

磯崎叡

右訴訟代理人

田中治彦

外二六名

主文

一  原告国鉄動力車労働組合の訴えを却下する。

二  原告国鉄動力車労働組合を除くその余の原告ら一二名の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者双方の求める裁判

(原告ら)

1  被告と原告惣田清一、同馬場義治、同中江昌夫、同八鍬重一、同荘司悦郎、同新妻義武、同関昇、同竹森彦左衛門、同加藤正、同赤堀時男、同下田君人および同坂井博との間にそれぞれ雇用契約が存在することを確認する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

(被告)

一  本案前の申立て

1 原告国鉄動力車労働組合の訴えを却下する。

2 却下された部分の訴訟費用は右原告の負担とする。

二  本案の申立て

1 原告らの請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者双方の主張

(請求原因)

一  被告は、日本国有鉄道法(以下国鉄法という。)に基づいて、鉄道事業等を経営する公共企業体である。

原告国鉄動力車労働組合(以下原告組合という。)は、被告の職員で組織する法人格を有する労働組合である。

原告組合を除くその余の原告らは、いずれも昭和三六年三月以前に被告に職員として雇用された者であり、かつ、原告組合の組合員にして、その役員(同月現在の役職名は別紙第一記載のとおりである。)である。

二  被告は、原告組合を除くその余の原告らについて、すでに解雇したと称して、同原告らと被告との間の雇用契約の存在を争つている。

三  そこで、原告組合を除くその余の原告らと被告との間に雇用契約が存在することの確認を求める。

(請求原因に対する認否)

請求原因一、二記載の事実を認める。

(抗弁)

一  本案前について

本件訴えは、被告である日本国有鉄道と原告惣田、同馬場、同中江、同八鍬、同荘司、同新妻、同関、同竹森、同加藤、同赤堀、同下田および同坂井との間に雇用契約が存続することの確認を求めるものであるから、この法律関係についてなんら管理・処分の権能を有していない原告組合は、右訴えを遂行する適格を有しない。

原告組合の規約第一二条には「組合は組合員と国鉄当局との間の訴訟について組合員の利益擁護のため、組合の名において国鉄当局に対しその組合員の権利を行使することができる。」旨の規定がある。しかし、組合員の解雇というようなことは組合員全体に均等に起る問題ではない。組合員の利益擁護といつても、具体的事案によつてその内容は異なるもので、このような将来予測のできないような権利または法律上の利益について、あらかじめこれを管理することができるという組合規約は、組合員に対する偶発的な、しかも、不平等の拘束を認める約款で無効である。したがつて、この規定のあることをもつて、原告組合が本件訴訟を遂行することができるとはいえない。

二  本案について

(一) 被告は、原告惣田、同馬場、同中江および同荘司に対しては昭和三六年三月二八日に、原告八鍬に対しては同月二九日に、原告新妻、同関、同竹森、同加藤、同赤堀、同下田および同坂井に対しては同月二七日にいずれも公共企業体等労働関係法(以下公労法という。)第一七条および第一八条に基づき解雇の意思表示(以下「本件解雇」という。)をした。

(二) 解雇理由の詳細は別紙第二記載のとおりであるが、その骨子は、原告組合を除くその余の原告らは、

1 本件争議行為の実施に際し、いずれも原告組合の本部あるいは下部機構の幹部役員として争議行為の実施を計画し、所属組合員に対し指令することに参画することによつて、争議行為の実施を共謀し、かつ、組合員をその実行にあおり、そそのかし(この項については、原告荘司および同竹森を除く。)、

2 前記のように原告組合の幹部役員として、争議行為実施のためピケ隊の動員・編成・配置等を行ない、あるいはこれを鼓舞・激励する等して、これらピケ隊所属の組合員をあおり、そそのかし、

3 現実にピケ隊を指揮し、あるいはみずから実力行使を行なうことによつて、ピケ隊所属の組合員をあおり、そそのかし、あるいはみずから違法行為を行ない、そのため、被告の業務の正常な運営が著しく妨害されたことにある。

〈後略〉

理由

(目次)

第一  原告組合の訴えの当事者適格および確認の利益

一  争いない事実

二  判断

(一)  雇用契約に対する組合の管理処分権

(二)  任意的訴訟担当

(三)  確認の利益

三  要約

第二  原告組合を除くその余の原告らの請求の当否

一  雇用関係の成立

二  本件解雇の意思表示

三  公労法第一七条第一項および第一八条の解釈

(一)  公労法第一七条第一項は、憲法第二八条に違反するか

1 公共企業体等の職員と憲法第二八条

2 公労法第一七条第一項と憲法第二八条

(1) 公労法第一七条第一項の文理解釈

(2) いわゆる合理的限定解釈

(二)  国鉄職員の争議行為は、公労法第一七条第一項によつて禁止されるか

1 公労法第一七条第一項が禁止する争議行為の範囲

2 国鉄職員の争議行為に関する立法の沿革

(1) 政令第二〇一号が制定されるまで

(2) 政令第二〇一号の制定と国公法の改正

(3) 公労法の制定

3 国鉄の業務と動力車乗務員等の職務

(1) 国鉄の業務

(2) 動力車乗務員等の職務

4 原告組合の組合員たる職員に対する争議行為制限の合理性と基準

(1) 制限の合理性

(2) 制限の基準

(ⅰ) 多数の列車の運行を阻害し、または多数の乗客に迷惑を及ぼす行為

(ⅱ) 長距離列車の運行を阻害する行為

(ⅲ) 積極的に列車の運行を妨害する行為

(ⅳ) 要約

5 公労法第一七条第一項後段の意義

(三)  公労法第一八条は、憲法第二八条に違反するか

四  本件争議行為の実状

(一)  本件争議行為への突入まで

1 原告組合の組織

(1) 平常時の組織

(2) 斗争時の組織

2 本件争議行為に至る経緯

(1) 事前協議制確立の問題について

(ⅰ) 国鉄近代化五か年計画の実施

(ⅱ) 五か年計画に対する原告組合の態度

(ⅲ) 基本了解事項の締結

(ⅳ) いわゆる九・二二斗争と覚書の締結

(ⅴ) 覚書締結後の状況

(2) 乗務粁制限問題について

(ⅰ) 内達一号とそのもとにおける乗務員の労働条件

(ⅱ) 内達一号に対する原告組合の態度

(3) 本件争議行為の企画・決定について

(ⅰ) 第一〇回全国大会の開催

(ⅱ) 第三四回中央委員会の決定

(4) 中央における斗争体制の確立について

(ⅰ) 中央斗争委員会の発足

(ⅱ) 全国組織部長会議の開催

(ⅲ) 本部斗争指令第六号の発布と派遣中斗の現地派遣

(ⅳ) 公労協戦術委員会に対する支援要請

(ⅴ) 本件争議行為への突入

(一) 旭川地区の状況(原告八鍬関係)(以下各列車の運行阻害状況等の細目次を省略する。)

1 旭川機関区表関門における機関車の運行妨害

2 旭川機関区裏関門における機関車の運行妨害

(三)  水戸地区の状況(原告惣田、同新妻、同関および同荘司関係)

1 水戸機関区関係乗務員の連行

2 水戸駅における発車妨害

3 職務遂行妨害等

(四)  浜松地区の状況(原告中江、同加藤、同赤堀および同竹森関係)

1 浜松機関区関係乗務員の連行

2 浜松駅における発車妨害

(五)  広島地区の状況(原告馬場、同下田および同坂井関係)

1 広島第二機関区関係乗務員の連行

2 広島第一機関区関係乗務員の連行

3 広島駅における機関車乗務員の乗務妨害等

五  本件解雇の効力

(一)  本件争議行為の評価

(二)  原告組合を除くその余の原告らの責任(原告らの各別の細目次を省略する。)

(三)  再抗弁についての判断

1 解雇権濫用の主張について

2 不当労働行為の主張について

(四)  雇用契約の消滅

第三  結論

(目次終り)

第一原告組合の訴えの当事者適格および確認の利益

一争いない事実

請求原因一記載の事実は、当事者間に争いがない。

二判断

本件訴えは、原告組合を除くその余の原告らと被告との間に雇用契約の存在することの確認を求めるものである。すなわち、そこで確認の対象とされているものは、原告組合と被告との間の法律関係ではなく、原告組合の組合員たるその余の原告らとその使用者たる被告との間の個別的労働契約上の法律関係である。

(一)  雇用契約に対する組合の管理処分権

労働組合は、実体法上当然にその組合員の個別的労働契約上の法律関係について管理・処分の権能を有するものではない。その理由は、次のとおりである。

労働組合は、労働条件の維持・改善その他経済的地位の向上を図るという存立目的に照らし、組合員たる労働者と使用者との間の労働条件について団体交渉ないし争議行為を行ない、労働協約によつて一般的にこれを取り決め、あるいは、使用者の組合員たる労働者に対する解雇その他の処分についてこれを団体交渉の対象としたり、争議行為に訴えたり、労働委員会に救済を求める申立てをすることができる。しかし、労働組合の組合員の雇用関係に対する管理処分権の及ぶ範囲は、それをもつて限度とするのであつて、それ以上に個々の組合員の雇用関係を組合員の意思に反して、存続させたり、消滅させたりする法律上の権限を有するものではない。

(二)  任意的訴訟担当

原告組合の規約第一二条に、「組合は、組合員と国鉄当局との間の訴訟について組合員の利益擁護のため、組合の名において国鉄当局に対しその組合員の権利を行使することができる。」との規定があることは、当事者間に争いない。

一般に、任意的訴訟担当がどの限度で許容されるかは、信託法第一一条の訴訟信託の禁止ならびに民事訴訟法第七九条の弁護士代理の原則等の関係から問題がある。仮にそれが許容される場合があるとしても、それは少なくとも具体的な法律関係について個々の組合員から個別的な訴訟遂行権の授権があることを要し、単に組合規約に包括的な授権規定が掲げられているだけでは足りないものと解すべきである。

したがつて、前記規約の存在のみによつては、原告ら一二名から原告組合に対する適法な訴訟遂行権の授権があつたということにはならない。

(三)  確認の利益

第三者間の法律関係の存否についても、確認の利益を有する限り、確認訴訟を提起することができる。この場合確認の利益があるというためには、第三者間の法律関係の存否が、確認を求める者の権利義務ないし、法律上の地位に影響を及ぼす場合でなければならない。

原告組合は、本件解雇が不当労働行為であると主張する。不当労働行為によつて組合員が解雇されるときは、組合の団結が侵害され、したがつてまた組合がその解雇の無効なることを宣言する判決を得ることは、団結の昂揚に役立つであろう。しかし、この「団結の侵害」によつて被る組合の不利益および「団結の昂揚」によつて得る組合の利益は、いずれも事実上のものであつて、法律上のものではない。

したがつて、組合は、組合員の雇用契約の存在確認を求める法律上の利益がない。

三要約

以上により原告組合は、本訴について当事者適格を欠くし、また確認の利益もないから、その訴えは、不適法として却下されるべきである。

第二原告組合を除くその余の原告らの請求の当否

一  雇用関係の成立

請求原因一記載の事実は当事者間に争いがない。したがつて、原告組合を除くその余の原告らと被告との間には、いずれも昭和三六年三月以前から雇用関係が存在していた。

二本件解雇の意思表示

本案の抗弁(一)記載の事実は、当事者間に争いがない。すなわち、原告組合を除くその余の原告らはいずれも昭和三六年三月二七日から同月二九日にかけて、被告によつて解雇されたわけである。

三公労法第一七条第一項および第一八条の解釈

(一)  公労法第一七条第一項は、憲法第二八条に違反するか

1公共企業体等の職員と憲法第二八条

憲法第二八条は、いわゆる労働基本権、すなわち、勤労者の団結する権利および団体交渉その他の団体行動をする権利を保障している。この労働基本権保障のねらいは、中郵判決および都教組判決も指摘するように、憲法第二五条に定めるいわゆる生存権の保障を基本理念とし、勤労者に対して人間に値する生存を保障すべきものとする見地に立ち、一方で、憲法第二七条によつて勤労の権利および勤労条件を保障するとともに、他方で、憲法第二八条によつて経済上劣位に立つ勤労者に対して実質的な自由と平等とを確保するための手段としてその団結権・団体交渉権・争議権等を保障しようとするにある。

そして、この労働基本権は、単に私企業の労働者に保障されるばかりでなく、公共企業体等の職員はもとよりのこと、国家公務員や地方公務員も、憲法第二八条にいう勤労者として、原則として、その保障を受けるべきものである。

しかしながら、憲法が保障する労働基本権といえども、もとより絶対的無制約なものではありえず、そこには、労働基本権を保障する前述のような憲法の趣旨に照らし、国民生活全体の利益との調和の見地からする合理的な制約があるものと解すべきである。

そして、このような見地に立つて考えれば、公共企業体等の職員の労働基本権については、ただ公共企業体等の職員であるという理由で、あるいは、公共企業体等の職員の職務がごく一般的な比較論として私企業の労働者のそれと比較してより公共性が強いという理由のみで、これを一律にすべて否定し、あるいは、制限することが許されないことは当然であるが、他方、公共企業体等の職員の職務の性質・内容に応じて、私企業の労働者と異なる制限を受けることのありうることもまた否定することができない。

ただ、公共企業体等の職員の労働基本権に対し、具体的に、どのような制約が許されるかについては、公共企業体等の職員にも労働基本権を保障している前述のような憲法の根本趣旨に照らし、慎重に決定する必要がある。そして、当裁判所としては、右の判断に際しては、諸般の事情を考慮すべきであるが、ことに、中郵判決の掲げる四条件、すなわち、①労働基本権が前述のように勤労者の生存権に直結し、それを保障するための重要な手段である点を考慮して、その制限は合理性の認められる必要最小限度のものにとどめられるべきこと、②労働基本権の制限は、勤労者の提供する職務または業務の性質が公共性の強いものであり、したがつて、その職務または業務の停廃が国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらすおそれのあるものについて、これを避けるために必要やむをえない場合について考慮されるべきこと、③労働基本権の制限違反に伴う法律効果、すなわち、違反者に対して課せられる不利益については、必要な限度をこえないように十分な配慮がなされなければならないこと、④職務または業務の性質上から労働基本権を制限することがやむをえない場合には、これに見合う代償措置が講ぜられなければならないこと、以上の四条件を基準として考慮すべきものと考える。

2公労法第一七条第一項と憲法第二八条

(1) 公労法第一七条第一項の文理解釈

公共企業体等の職員の争議行為を禁止する旨規定した公労法第一七条第一項が合憲か違憲かも、右に述べたような基準に照らして判断しなければならない。

ところが、右条項は、「職員及び組合は、公共企業体等に対して同盟罷業、怠業、その他業務の正常な運営を阻害する一切の行為をすることができない。又職員並びに組合の組合員及び役員は、このような禁止された行為を共謀し、そそのかし、若しくはあおつてはならない。」と規定する。そして、この規定をその法文にそくして解釈するかぎり、公共企業体等の職員の職務の公共性の強弱ならびにその職務の停廃が国民生活に重大な障害をもたらすおそれがあるかどうかにかかわりなく、すべての公共企業等の職員の、しかも、いつさいの争議行為を禁止したものと解さざるをえない。けだし、業務の正常な運営を阻害する行為とは、通常の企業運営において正常に行なわれている業務に何らかの支障をきたすような行為を指すものと解すべきであるが、同盟罷業または怠業等の争議行為は、事柄の性質上本来的に正常な企業運営業務に支障をきたす性質を帯有しているのであり、右規定は法文上これらの行為をすべて禁止しているからである。

そうとすれば、右規定は、前述の公共企業体等の職員の労働基本権を保障した憲法の趣旨に反し、労働基本権の制限は必要やむをえない場合に、かつ、合理性の認められる必要最小限度でのみ考慮されるべきであるとの要請を無視し、その限度をこえて争議行為を禁止したものとして、違憲の疑いを免れない。

(2) いわゆる合理的限定解釈

都教組判決は、地方公務員の争議行為を禁止する旨規定した地公法第三七条第一項について、これをその法文にそくして解釈するかぎり違憲の疑いを免れないとしながら、法律の規定は何能なかぎり憲法の精神にそくし、これと調和しうるよう合理的に解釈されるべきであり、この見地からすれば、右規定の表現にかかわらず、禁止されるべき争議行為の種類や態様にはおのずから合理的な限界の存することが承認されるはずであるとし、地方公務員の具体的な行為が禁止の対象たる急議行為に該当するかどうかは、争議行為を禁止することによつて保護しようとする法益と労働基本権を尊重し保障することによつて実現しようとする法益との比較較量により、両者の要請を適切に調整する見地から判断する必要がある旨判示する。要するに、地公法第三七条第一項は、右のいわゆる合理的な限定解釈が可能であるから、これを違憲無効の規定であるということはできないというのである。

公労法第一七条第一項についても、このいわゆる合理的な限定解釈を施せば、合憲的に解する余地がないではない。すなわち、公共企業体等の職員の職務の公共性にかんがみるときは、その職員の争議行為は公共性の強い公共企業体等の業務の停廃をきたし、ひいては国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらすおそれがあるので、これを避けるための措置として、そのようなおそれのある争議行為を禁止しようとする規定であると解するところに、かろうじて右規定の合憲性を見いだすのである。

しかし、公労法第一七条第一項は、前述のように、その文理上は、すべての公共企業体等職員のいつさいの争議行為を禁止するという規定のしかたをしている。したがつて、右規定を国民生活に重大な障害をもたらすおそれを避けるため必要やむをえない場合に、しかも、合理性の認められる必要最小限度で公共企業体等職員の争議行為を禁止したものと解すべきものとするならば、それは、あまりにも文理とかけ離れた解釈にならないかという疑問がないではない。合理的解釈といつても、あまり文理とかけ離れた解釈は、法律解釈の限界を逸脱し、立法作用と同一の機能を営むことになる。また、憲法の保障する基本的人権を、その内在的制約を理由に、立法をもつて制限または一部禁止することは、きわめて重大な事柄であるから、その制限または禁止の基準は、一般的・抽象的なものではなく、できるかぎり客観的・具体的なものであることが望まれる。そうとすれば、前述の「国民生活に重大な障害」とか「必要最小限度の禁止」という基準は、基本的人権の制限・禁止の基準として妥当なものといいうるであろうか。公共企業体等の職員の職務は、一般的にいえば、多かれ少なかれ公共性を有するとはいえ、その公共性の程度は強弱さまざまであり、かつ、ひとしく公共企業体等の職員の争議行為といつても種々の種類・態様のものがあるから、その争議行為の国民生活に及ぼす影響の程度は千差万別である。それゆえ、前述の基準によつては、具体的に、いかなる職務の公共企業体等職員の、いかなる種類・態様の争議行為が国民生活に重大な障害をもたらすおそれがあるものとして禁止の対象とされ、いかなるものが禁止の対象外とされているかを判別することは容易ではない。その結果、解釈者の主観によつて、結論を異にするおそれがないではない。その判定は最終的には裁判所の判断をまつ以外に方法がないが、労働者としての職員および使用者としての公共企業体等とも、行為規範としての禁止された争議行為の基準の判断に迷い、行動をちゆうちよするか、あるいは、もつぱら自己の有利にのみ解釈して行動するため、対立抗争を激化させるおそれがある。たとえば、職員の側ではこれを許されたものであるとして争議行為を強行し、これに対し、使用者である公共企業体等の側では当該争議行為を公労法第一七条第一項により禁止されたものであるとして争議に介入したり、これに参加した職員を処分するなどの行為にでるという事態を招き、いたずらに労使関係を紛糾させ、混乱させることとなりかねない。このように混乱と紛糾とをまきおこすおそれのある抽象的基準しか設定しえない解釈が合理的な解釈といえるかという点にも疑問がなくはない。

以上のようにみてくると、いわゆる合理的な限定解釈によつて公労法第一七条第一項の禁止する争議行為の種類・態様に合理的な限界を画することができるとする見解には相当に問題があるといわなければならない。しかし一方、法令の憲法適合性を判断するに当たつては、可能なかぎり憲法の精神にそくし、これと調和しうるよう合理的に解釈すべきであるという原則が一般に承認されている。この命題を前提とし、しかも公労法第一七条第一項は、国家公務員の争議行為を禁止した国家公務員法第九八条第二項や地方公務員の争議行為を禁止した地公法第三七条第一項と異なり、刑罰法規としての性質を有しているわけでもないことを合わせて考慮すれば、前述のような疑問があることのみをもつて、公労法第一七条第一項についていわゆる合理的な限定解釈が許されないと断ずることは相当ではない。当裁判所としては、いわゆる合理的限定解釈によつて公労法第一七条第一項を合憲的に解することには、前述のような疑問があることを一応認識しながらも、なおそれが法律解釈としての限界を逸脱するものではないとの立場をとるものである。したがつて、右規定は、公共性の強い職務に従事する公共企業体等職員の、国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらすおそれのある争議行為に限つてこれを禁止しようとする趣旨のものであると解し、順次以下の論理を展開する。

(二)  国鉄職員の争議行為は、公労法第一七条第一項によつて禁止されるか

1公労法第一七条第一項が禁止する争議行為の範囲

さきに詳述したところから明らかなように、公共企業体等職員の争議行為の禁止は、中郵判決の掲げる前記四条件を充足したものでなければならない。すなわち、公労法第一七条第一項は、(イ)公共性の強い職務に従事する公共企業体等職員の(右基準②の適用)、(ロ)国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらすおそれがあり(右同)、(ハ)他の手段・方法等による制限ではそのおそれを避けることができない(右基準①の適用)争議行為に限つて、これを禁止したものと解すべきである。

2国鉄職員の争議行為に関する立法の沿革

(1) 政令第二〇一号が制定されるまで

昭和二三年七月三一日政令第二〇一号が制定施行されるまでは、昭和二〇年一二月に制定された旧労組法および昭和二一年九月に制定された旧労調法が、民間労働者はもとより、国家公務員や地方公務員にも適用され、警察官吏・消防職員・監獄に勤務する者など一定の職員を除いて、民間労働者と同様に団結権・団体交渉権および争議権を保障していた。そして、国鉄職員も、この当時、国家公務員たる身分を有していたが、団結権・団体交渉権および争議権を制限されることなく、争議行為も許されていた。

(2) 政令第二〇一号の制定と国公法の改正

ところが、昭和二三年七月三一日に制定施行された政令第二〇一号は、現業・非現業の区別なく国家公務員および地方公務員の争議行為を禁止した。そのため、国鉄職員の争議行為も、一転して、禁止されることになつた。

そして、この国家公務員の争議行為禁止の趣旨は、同年一二月三日法律第二二二号による国公法の全面改正により、同法に盛り込まれた。

(3) 公労法の制定

ついで、昭和二三年一二月二〇日に公布され昭和二四年六月一日から施行された公労法(当時は公共企業体労働関係法と称した。)は、同時に施行された日本国有鉄道法および日本専売公社法と相まつて、国鉄および日本専売公社の職員を国公法の適用から除外し、その労働関係については公労法を適用することとしたが、政令第二〇一号および国公法における争議行為禁止の趣旨はそのまま引き継がれた。ただ、公労法においては、政令第二〇一号および国公法におけると異なり、争議行為禁止違反に対する刑事制裁に関する規定を欠いている点が大きな変化であつた。

3国鉄の業務と動力車乗務員等の職務

(1) 国鉄の業務

国鉄は、国が国有鉄道事業特別会計をもつて経営している鉄道事業その他一切の事業を経営し、能率的な運営により、これを発展せしめ、もつて公共の福祉を増進することを目的とする公法上の法人である(国鉄法第一条、第二条)。国鉄の資本金は全額政府の出資にかかり(同法第五条)、国鉄は運輸大臣の監督下におかれ(同法第五二条)、その総裁は内閣が任命し(同法第一九条)、その予算は国の予算の例によつて国会で議決され(同法第三九条の三)、その会計は、会計検査院が検査する(同法第五〇条)。そして国鉄は、前記目的を達成するために、鉄道事業、鉄道事業に関連する連絡船事業および自動車運送事業ならびにこれらの附帯事業の経営業務等を行なうのである(同法第三条)。これによつてみれば、国鉄の業務は、高度に公共性の強い業務であるといわなければならない。

〈証拠〉によれば、本件争議行為が行なわれた昭和三六年三月一五日の属する昭和三五年度当時の国鉄の輸送の概況は次のとおりであることが認められる。すなわち、同年度末営業キロは、国鉄の鉄道においては、20,481.9キロメートルであるのに対し、私鉄においては七、四二〇キロメートルである。同年度の国鉄の国内旅客輸送に占める割合は、五一パーセントであり、国鉄の国内貨物輸送に占める割合は、三八パーセントである。輸送人員は、鉄道においては、五、一二三、九〇〇、〇〇〇人、船舶においては、一一、三七七、〇〇〇人、自動車においては、二三九、二七〇、〇〇〇人であり、鉄道による輸送トン数は、九五、二九四、〇〇〇トンである。

これによつてみれば、国鉄の輸送力は、わが国の輸送力の主要な部分を占めていることが一目りよう然である。国鉄は、その大規模な輸送網により膨大な輸送を担当していることによつて、全国すみずみに至るまで、全国民の生活に密着しているのである。

国鉄業務の特徴として留意すべきは、その輸送量だけではなく、輸送の種類である。国鉄の鉄道輸送が特に長距離輸送において、私鉄とは隔絶した威力を発揮し、ほとんど長距離輸送を独占していることは、公知の事実である。国民が遠距離を旅行するとき、また貨物が生産地から消費地に大量に輸送されるときなどは、庶民または一般の経済人に対し最良の輸送手段を提供するものは国鉄である。国鉄は、長距離輸送において、全国民に最も便利なサービスを提供しており、これに代わることのできる適当な機関はない。私鉄輸送は、おおむね通勤電車用の短距離輸送を業務内容とし、しかも大都市とその周辺に偏在しているから、国鉄の全国的規模にわたる長距離輸送の代替物としての役割を果たせない。

以上の諸事情を総合して考えれば、国鉄の輸送業務は、社会経済および国民生活にとつて、大動脈にも比肩すべき役割を果たしているといつても過言ではない。国鉄の輸送業務の興廃は、国民生活や社会経済事情に重大な影響を及ぼすことは明白である。国鉄の業務が停廃するときは、その種類・規模・態様のいかんによつては、国民生活に重大な支障をきたし、それに深刻な打撃を与えることを承認しなければならない。ここに一言にして国民生活というが、その内包するところは、広範にして無限に近い。生命や健康を維持する最小限の必需品も、卑近な日常生活の必要品も、娯楽や果ては高度の教育文化の領域においても、国鉄の輸送力に依存していないものは考えられない。したがつて、国鉄の業務の停廃は、健康にして文化的な生活はおろか、最低の国民生活をも崩壊させるおそれすらある。そうすると、国鉄業務は、公労法第一七条第一項の規定する争議行為禁止規定の積極的要件である公共性が強く、国民生活に密接に関連する業務であるといわなければならない。

(2) 動力車乗務員等の職務

国鉄のような膨大な企業は、その運営において多種多様な職権を包含するから、国鉄職員の担当する職務もまた千差万別である。国鉄の基幹業務たる輸送業務に直接従事する者もあれば、また間接的な附帯業務に従事する者もある。その従事する職務のいかんによつて、その職務の停廃が国鉄の輸送業務に及ぼす影響に差を生ずるわけである。換言すれば、国鉄職員の担当職務も、その公共性は一様ではなく、輸送という国鉄本来の業務に密着する職務であるがために公共性の強いものと、附帯業務であるがために公共性の比軽的弱いものがある。その公共性の度合いは、輸送業務との関連の程度の程度に比例する。

〈証拠〉によれば、原告組合の組合員の主流は、現に国鉄の職員および準職員で機関車、電車、気動車ならびにその他動力車に関係ある職務に従事する者および右職務に従事する臨時雇用員であること、これらの者は、主として乗務員(機関士および同見習等)、検修(車両検修掛)、整備(信号掛、構内掛等)および検査(車両検査掛等)等に従事していることが認められる。

そうすると、原告組合の組合員は、国鉄の輸送業務を直接担当する者であるから、その担当職務は、きわめて公共性の強いものといわなければならない。特に原告組合の主流を占める動力車乗務員は、動力車の運転という国鉄業務の中枢をつかさどるものであるから、その担当職務は最も公共性が強いというべきである。

4原告組合の組合員たる職員に対する争議行為制限の合理性と基準

(1) 制限の合理性

以上みてきたところにより明らかなように、国鉄の基幹業務である旅客および貨物輸送業務は、公共性の強い業務であり、しかも動力車乗務員を主力とする原告組合の組合員は、直接輸送業務に従事するが故に、その担当する職務はきわめて公共性が強い。したがつて、原告組合の組合員が争議行為を行ない、その職務を放棄するときは、多かれ少なかれ、国鉄の輸送業務に直接支障を及ぼすわけである。争議行為の種類・規模・態様のいかんによつては、国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらすことのあるのを否定できない。例えば、原告組合員の争議行為が長時間かつ大規模な職場放棄の形式でなされるような場合は、輸送業務の停廃はその極に達し、社会経済に深刻な打撃を与え、国民生活に言い知れぬ混乱を惹起するであろう。特に動力車乗務員のように高度の技術と知識とを必要とする職種においては、余人をもつてこれに代替することができないから、なおさらである。したがつて、この種の争議行為は、公労法第一七条第一項前段にいう業務の正常な運営を阻害する行為として、禁止されるものと解すべきである。

これに反し、原告組合員の争議行為であつても、短時間かつ小規模に、たんなる労務提供拒否という形式をもつてなされるような場合は、国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらすおそれがあるものとは考えられないから、右規定に該当する争議行為ではない。前記立法の沿革に徴しても、従来無制限であつた国鉄職員の争議行為を全面的に一律に禁止することを首肯させるほどの立法事実は存在しなかつたし、公共企業体等職員の争議行為禁止は、次第に緩和の方向に向つているのであるから公労法第一七条第一項前段の規定にもかかわらず、国鉄職員にも許された争議行為の存在することを卒直に肯定すべきなのである。

(2) 制限の基準

公労法第一七条第一項前段によつて禁止される国鋭職員、なかんずく動力車乗務員の争議行為は、(イ)国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらすおそれがあり、(ロ)他の手段・方法等による制限によつては、そのおそれを避けることのできないものに限られるのである。

しかし、裁判所が法律の合憲的解釈を試みる場合は、抽象的な基準の設定に満足すべきではない。それでは、法的安定に役立つ国民の行動規範は、なんら発見されないからである。抽象的な法の解釈によつて、一般条項的な基準を設け、これを直接に事実に適用して結論を導き出すことは、説得力のある論法ではない。ところで、国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらすおそれという概念は、きわめて抽象的なものであるから、これを国鉄職員の争議行為の評価の基準として、具体的事件に直接適用することは妥当ではない。けだし、国鉄職員の争議行為によつて惹起される国民生活への影響は、その波及する範囲が広大であるから、その終局的結果まで追及して、どの程度の障害が生じたかを測定することは、ほとんど不可能に近い。すなわち、争議行為に起因する障害の程度を即時量的に算定することは、まず絶望視しなければならないからである。

当裁判所は、国鉄職員の争議行為で、国民生活に重大な障害をもたらすものの基準は、次のとおり解すべきものと考える。

列車の運行は、その性質上定時運行が厳格に要求される。列車の遅延は、スピードアップという危険を伴うことなしには挽回不能であるから、ある一地点において争議行為によつて列車の運行が遅延することは、抗弁を許さない国鉄業務に対する決定的な障害事由として、は握しなければならない。また多数の列車が同一線路上を所定のダイヤに従い、一定の時間的間隔をもつて、しかも間断なく進行するのが例である。いわゆる過密ダイヤにおいて、特にそうである。したがつて、一列車の遅延または運転休止は、ただその列車の延着または運休という結果を招来するに止まらず、後発列車の延発や後続列車の遅延または運休を招くことは必然である。接続列車に対する悪影響も、同様に否定できない。すなわち、一列車の遅延または運休は、その列車の乗客に迷惑を及ぼし、またはその積載貨物の延着をきたすだけではなく、連鎖的に他の列車の旅客の迷惑または貨物の利用に対する支障をもたらすことは自然の勢いである。国民生活への障害の程度を考慮ずるにあたつては、以上のことを十分しんしやくすべきである。それだからといつて、短時間内の少数の列車の遅延または運休をとらえて、国民生活に重大な障害をもたらすというのは相当ではない。

まず、争議行為として最も普通になされる労務提供拒否(同盟罷業)および労務の能率低下(怠業)について考える。それを規模の面からみれば、長時間、相当広範な地域にわたる争議行為であり、それを態様の面からみれば、列車、特に私鉄の輸送等によつて代替不可能な長距離列車等の運行を阻害するおそれのある争議行為がこれに当たるものと解するのが相当である。

(ⅰ) 多数の列車の運行を阻害し、または多数の乗客に迷惑を及ぼす行為

禁止される争議行為の第一の要件は、相当の時間にわたる争議行為で、多数の列車の運行が遅延し、または運休するおそれのあるものである。国鉄の列車を利用する乗客は、定時に目的地に到着することを予定し行動しているから、列車の遅延または運休によつてこの予定が狂うときは、その計画的な生活に計り知れない障害を及ぼすのである。貨物の場合も、利用着にとつてその理は異ならない。しかも、これによつて一旦失われた時間の損失は、決して回復することができないのである。遅延または運休の列車の数が増加し、予定の行動を阻害された乗客が多数生じ、また大量の貨物が予定の時刻に目的地に到着しないときは、それはすなわち国民生活全体に重大な障害をもたらすものといわなければならない。

またそれ程の長時間にわたらない争議行為であつても、それが全国的規模において多数の列車の正常な運行を阻害するおそれがある場合は、結局多数の乗客に迷惑を及ぼし、大量の貨物の定時流通を阻害するものであるから、国民生活全体に重大な障害をもたらす争議行為といわなければならない。

(ⅱ) 長距離列車の運行を阻害する行為

禁止される争議行為の第二の要件は、長距離列車の運行を阻止するような争議行為である。国鉄も私鉄も、旅客または貨物の輸送を目的とする点においては、その業務が共通し、等しく公共性を有する。それなのに、国鉄の職員に対しては争講行為が禁止され、他方私鉄の職員については、一定の要件のもとに争議行為が制限または限定的に禁止される場合があるに過ぎない(労調法第三七条、第三八条)。この差違は、国鉄業務の公共性を強調するだけでは、説明がつかないが、等しく公共性のある企業についても、どの企業について争議行為を禁止または制限し、どの企業についてこれを解放するかは、立法政策の問題である。一方を禁止し、他方を放任したとしても、その禁止規定がすなわち憲法違反のものとはならない。それはとも角として、私鉄業務と国鉄業務との最大の差は、先にも述べたとおり、私鉄の業務がおおむね一地域の短距離輸送業務に限られるのに対し、国鉄は全国的規模の長距離輸送業務をもつかさどるところにある。国鉄の輸送業務は全国津津浦浦に及び、特に長距離鉄道輸送業務は国鉄の独占事業ともいうべき観を呈する。私鉄路線と国鉄路線との競合する地域においては、国鉄の輸送業務が停滞しても、私鉄の輸送力が消化できる限度においては、国民の受ける迷惑は軽減する。しかし、長距離輸送においては、国鉄の輸送を私鉄の輸送力をもつて代替することは不可能であるから、この種の国鉄業務の停廃は、絶対的に公衆の日常生活を危くし、国民経済全体を著しく阻害することは見やすい道理である。この現実を直視するならば、国鉄の主要幹線を進行する長距離列車の正常な還行を著しく阻害するようなおそれをもたらす争議行為は、国民生活に重大な障害を及ぼすものとして禁止されるものと解すべきである。

(ⅲ) 積極的に列車の運行を妨害する行為

次に同盟罷業および怠業以外であつて、公労法第一七条第一項の禁止する業務の正常な運行を阻害する行為として、禁止される行為は、暴力または威力を用いるなどして、積極的に列車の正常な運行を妨害する行為である。正常な争議行為としての評価に値しない業務妨害行為がこれに該当する。手段において違法な争議行為または争議行為に際してなされる暴力行為等が顕著な例である。労働者の争議権を保障する憲法第二八条も、暴力または威力を伴うような積極的な業務妨害行為を保障するものではないから、これらの行為が公労法第一七条第一項前段によつて禁止されると解しても、同条の違憲性は問題とはならない。暴力や威力の行使は、争議行為に際しても、絶対的に禁止さるべきものであつて、目的の正当性は、手段または方法の適法性を理由づけるものではない。

ただこの面から右規定を適用するについては、何が積極的な業務妨害行為であるかという評価において慎重でなければならない。もつとも、列車の運行阻止というような業務妨害行為においては、単にその列車の運行妨害のみならず、それによつてもたらされるダイヤの混乱、乗客の焦燥や怒り、列車乗務員の心理的動揺等という悪影響を顧慮する必要がある。それは、時には人命の危機と貨物の安危にもつながる重大事であつて、一般企業の業務妨害とは比べものにならない程の悪質なものであることを銘記しなければならない。

(ⅳ) 要約

結局公労法第一七条第一項によつて禁止される国鉄職員の争議行為とは、同盟罷業または怠業であつても、相当な時間大規模に行なわれるものであつて、特に主要幹線の列車の運行を著しく阻害するもの、または暴力その他不当性を伴なう業務妨害行為を指すものと解するのが相当である。

5公労法第一七条第一項後段の意義

右規定にいう「共謀」とは、複数の者が同項前段に規定する違法行為を行なうため、共同意思のもとに、一体となつて互いに他人の行為を利用し、各自の意思を実行に移すことを内容とする謀議をすることであり、「そそのかし」とは、同項前段に規定する違法行為を実行させる目的をもつて、他人に対し、その行為を実行する決意を新たに生じさせるに足りる慫慂行為をすることであり、また「あおり」とは、右と同様な目的をもつて、他人に対し、その行為を実行する決意を生じさせるような、あるいはすでに生じている決意を助長させるような勢いのある刺激を与えることであると解するのが相当である(最高判昭和四四年四月二日刑集二三巻五号六八五頁参照)。そして、「あおり」または「そそのかし」は、文書または言葉によつてなされるだけではなく、ある種の動作によつてなされることもある。

その行為の結果からみれば「あおり」または「そそのかし」によつて、相手方が実際に違法行為を実行する決意を生じたか、またはすでに生じている決意が助長されたか、その決意に基づいて違法行為が実行されたかどうかは問わないのである。

公労法第一七条第一項は、公共企業体等の労働組合によつてなされる争議行為を禁止する目的をもつて設けられた規定である。公共企業体等の労働組合のような規模の大きい労働組合によつてなされる争議行為は、中央の最高機関を組織する組合幹部の計画・発議・決定・指導により統一的に実行されることが多い。争議行為により現実に公共企業体等の業務の正常な運営を阻害する者は、第一線の組合員であるが、それを企画指導する者は組合幹部である。違法争議行為の禁止を実効あらしめるためには、第一線の組合員の実行行為を禁止するだけでは十分でなく、その根源にある企画・指導をも、いなむしろ後者の方を禁止する必要がある。この争議行為の企画・指導は、組合活動としては、争議行為の共謀、あおり、そそのかしの形態をとつて現われるのが通常であるから、公労法第一七条第一項後段は、違法争議行為の共謀、あおり、そそのかしをその実行行為と同列において禁止し、同法第一八条をもつて、これらの行為すべてを等しく解雇事由とした。そうすると「あおり」または「そそのかし」とは、その対象たる争議行為が同法第一七条第一項前段に違反する争議行為である限り、争議行為に通常随伴する態様のものであるかどうかを問わないし、また「あおり」または「そそのかし」行為そのものの違法性の強弱は問題とならないのである。「あおり」または「そそのかし」行為の方法はどうであつても、いやしくも違法争議行為の実行を指令し、慫慂し、説得する等の行為は、すべて右規定にいう「あおり」または「そそのかし」に該当するものといわなければならない。争議行為に通常随伴するものと認められるあおり行為等を右規定にいうあおり行為等から除外するときは、右規定は、ほとんど実効のない空文と化するからである。

(三) 公労法第一八条は、憲法第二八条に違反するか

公労法第一八条は「前条の規定に違反する争議行為をした職員は、解雇されるものとする」と規定し、さきに述べたような同法第一七条第一項の争議行為禁止規定に違反して争議行為を行なつた公共企業体等の職員に対し解雇という不利益処分を課している。そして、同法第一八条が前記のような違法行為をした職員を一律に必ず解雇すべきである旨を規定したものと解すべきであるとするならば、それは、争議行為禁止違反に対して課せられる不利益は必要な限度をこえないよう十分な配慮がなされなければならないとの基準に照らし、違憲の疑いを免れないであろう。しかし、右規定は、そのような一律的な解雇の必要を規定したものではなく、解雇するかどうかは職員のした違法行為の態様・程度等に応じ合理的な裁量に基づいて決すべきものとする趣旨に解するのが相当であるから、右規定自体を直ちに憲法第二八条に違反するものと断ずることはできない。

四本件争議行為の実状

(一)  本件争議行為への突入まで

1原告組合の組織

〈証拠〉によれば、次の事実が認められる。

(1) 平常時の組織

原告組合は、被告の職員中動力車に関係のあるもので組織する法人格を有する労働組合であり(このことは、当事者間に争いがない。)、組合員の労働条件の維持・改善をはかり、経済的・社会的地位を向上させ、運輸産業を通じて民主的国家経済の興隆に寄与することを目的とするものである。

組織として、(イ)中央に中央執行委員会によつて構成される中央本部があるほか、(ロ)各鉄道管理局またはこれに準ずる範囲ごとに設けられる地方本部、(ハ)機関区・気動車区・運転所・運転区およびその他動力車に関係ある業務機関ごとに設けられる支部、(ニ)支社相当地域ごとにいくつかの地方本部を包括し、その地域における被告の対応機関との団体交渉の単位として、また、地方本部間の統制および連絡調整を行なう協議機関として設けられる地方評議会等がある。

その議決機関は、最高のものとして大会があり、これにつぐものとして中央委員会がある。さらに、地方本部には地方本部大会とこれにつぐ地方本部委員会とが、支部には支部大会とこれにつぐ支部委員会とがある。

執行機関としては、中央本部に中央執行委員会が、また、地方本部および支部にそれぞれ地方本部執行委員会および支部執行委員会がある。

中央執行委員会は、中央執行委員長・同副委員長および書記長各一名と中央執行委員若干名とで構成され、大会または中央委員会の決議を執行するほか、緊急事項を処理すること、大会または中央委員会の決議の範囲内で組合員に指令すること、原告組合の要求に関するいつさいの交渉を行ない、協定に達したときには中央執行委員長名でこれに調印すること、重大な斗争に関する議案を提出する必要があるときに大会または中央委員会を臨時に招集すること等の権限を有する。中央執行委員長は、原告組合を代表するとともに、業務を統括し、同副委員長は、中央執行委員長を助け、または、これを代理し、書記長は、中央執行委員長を助け、業務を掌り、中央執行委員は、各部局に所属して業務を掌る。地方本部執行委員会および支部執行委員会の構成・権限ならびに役員の任務等も右に準ずるものである。

(2) 斗争時の組織

紛争を生じて不測の事態が予測されるときは、大会または中央委員会の決議により、その都度中央斗争委員会が設けられ、斗争期間中中央執行委員会の斗争に関する権限が委譲される。

中央斗争委員会は、中央斗争委員長一名、同副委員長二名、中央斗争委員および中央斗争委員会書記各若干名で構成され、大会または中央委員会の重大な斗争に関する決議を執行し、斗争に関するいつさいの交渉を行ない、協定に達したときは中央斗争委員長名でこれに調印する。また、中央斗争委員会は、大会または中央委員会の決議の範囲内で斗争手段を決定し、中央斗争委員長がこれを直接組合員に対し指令、右指令を受けた組合員はこれを忠実に履行する義務を負う。

なお、右斗争指令は具体的には各地方本部および各支部を順次経由してその所属組合員に伝達されるが、各地方本部および各支部はその斗争指令に変更を加えたり、これを返上したりすることは許されない。中央斗争委員長には中央執行委員長が、中央斗争副委員長には中央斗争委員の互選したものが、中央斗争委員には中央執行副委員長・書記長・中央執行委員等が、中央斗争委員会書記には中央委員会の決議により中央斗争委員長の指名したものがそれぞれ当たり、中央斗争委員長は、中央斗争委員会を代表し、同副委員長は、中央斗争委員長を助け、または、これを代理し、中央斗争委員は、斗争に関する事務を掌り、中央斗争委員会書記は、中央斗争委員会の指示により斗争に関する事務に従事する。

中央斗争委員会は、その業務を遂行するため、企画統制部・共闘部・交渉部・宣伝部および財政部を設けて(ただし、必要に応じて、このほかの部を設け、あるいは、省略することがある。)、業務を分担する。このうち、企画統制部は、斗争手段の計画および実行、指令の立案、現地指導ならびに暗号、統制に関することを任務とする。そして、現地指導のために中央斗争委員会から現地に派遣される中央斗争委員を一般に派遣中斗といい、これに対し、中央本部にとどまつている中央斗争委員を残留中斗と呼びならわしている。この派遣中斗は、派遣先の斗争拠点において当該斗争遂行上の最高責任者となり、右拠点のある地方本部あるいは支部はその指揮下に入るので、右地方本部あるいは支部の委員長といえども派遣中斗の指令を変更したり、あるいは、独自に指令を発する権限を有しなくなるのであるが、他方、派遣中斗も、あくまでも大会・中央委員会および中央斗争委員会の決定の範囲内でこれを忠実に履行することが要求され、緊急時にも独断専行は許されず、判断に迷うような事態が発生した場合には残留中斗に相談し、その指示を仰いでから具体的行動に出るべきものとされている。共闘部は他の団体との共斗・連絡および要請に関することを、交渉部は要求事項に関する調査および交渉に関することを、宣伝部は斗争目的を徹底するための内外の宣伝に関することを、財政部は食糧・資材・宿泊など斗争財政全般に関することをそれぞれ任務とする。

このほか、地方本部においても、斗争時には右に準じて地方本部斗争委員会が設けられる。

2本件争議行為に至る経緯

〈証拠〉を総合すれば、次の事実を認めることができる。

(1) 事前協議制確立の問題について

(ⅰ) 国鉄近代化五か年計画の実施

被告は、総額五、九七〇億円をもつて、昭和三二年度から国鉄近代化五か年計画を実施した。その主要目標は、①老朽化諸設備の取替えと改善、②輸送力の増強、③輸送の近代化であつたが、そのなかでも中心をなすものは輸送力の増強であり、その具体的方法としては動力車の近代化(蒸気機関車から電気機関車・電車・気動車へ)に重点がおかれた。

この第一次五か年計画は、昭和三五年に入ると、当初計画の見とおしの誤りから計画された輸送力の増強では輸送の需要の伸びに応ずることができなくなつたことおよび資金的な行詰り等の理由からこれを修正せざるをえない状況となり、被告は、新たに国鉄近代化新五か年計画を樹立し、これを昭和三六年度から実施に移すこととした。この新五か年計画の主要目標は、主要幹線の複線化・輸送力の増強・輸送方式の近代化をはかるとともに、あわせて経営の合理化を推進するということであつた。

(ⅱ) 五か年計画に対する原告組合の態度

原告組合は、五か年計画が組合員の労働条件に影響を及ぼすものであること、例えば、①動力車の近代化により、従来の職種のうちに不要の職種を生じ、それに伴い配置転換が必要となること、②乗務員の近代動力車乗務員への転換教育が必要となること、③動力車の近代化は必然的に列車のスピードアップ・ロングラン化をもたらし、それは、一方において信号の自動化・踏切りの自動化等ともあいまつて乗務員の労働密度を増大させるとともに、他方において途中検査修繕の廃止・機関区の統合廃止による職員の配置転換を招来すること等を理由として、被告が近代化五か年計画を実施するに当つては計画の段階でこれを原告組合に提示し、労使双方で協議を行ない、協議がととのつてからこれを実施に移すべきであるとの基本的態度のもとに、昭和三三年八月二九日、被告に対し、①五か年計画は原告組合と協議を行なつたのちに実施すること、②転換教育について労働条件を確立すること、③配置転換は本人の事前了解を必要とすること、④勤務時間を短縮すること、⑤職場の統合廃止等は行なわないこと等を内容とする申入れをし、これについて団体交渉を行なつた。

(ⅲ) 「墓本了解事項」の締結

右団体交渉において、被告は、当初、管理運営事項であることを理由として五か年計画について事前協議を行なうことを全面的に拒否する態度をとり、交渉は難航したが、ようやく昭和三三年一二月九日に次のような内容の「国鉄近代化計画実施についての基本了解事項」が締結されるに至つた。

「日本国有鉄道(以下「甲」という。)と日本国有鉄道機関車労働組合(以下「乙」という。)とは、国鉄近代化の実施について次のように了解する。

(一) 近代化計画については、可及的速かにその内容を提示し、協議をおこなう。この協議は、相互の完全な理解を目的とするためのものである。

(二)  前項の対象となる事項は、次の各項とする。

(イ) 近代化計画及びこれに伴う要員計画

(ロ) 職務転換に必要な教育に関する事項

(ハ) 現業機関の改廃に関する事項

(三)  甲及び乙は、協議の過程において公労法第八条各項〔団体交渉の範囲〕に該当するものについては、あらためて団体交渉により協定を締結する。

(四)  甲の支社又は鉄道管理局においても乙の対応機関との間に本了解と同様の精神をもつて協議する。」

(ⅳ) いわゆる九・二二斗争と「覚書」の締結

右「基本了解事項」の中心をなすものは、その第一項の「近代化計画については、可及的速かにその内容を提示し、協議をおこなう。この協議は、相互の完全な理解を目的とするためのものである」とある部分であつた。

しかし、右「基本了解事項」締結後の近代化計画実施に当たつての各地における被告側の態度は、原告組合側からみれば、あるいは計画立案過程のなかで説明するのではなく完全な実施段階に至つてはじめてこれを提案し、あるいは原告組合の計画変更要求に対して当局案を固執して譲らないなどといつた具合に、「基本了解事項」の精神を踏みにじるものとしかとれないものであつたため、「基本了解事項」締結後も近代化計画実施をめぐつての労使の対立を解消するには至らず、各地で依然として紛争状態が続いた。

そこで、原告組合は、昭和三四年七月に開催された第九回全国大会において「基本了解事項」が締結されたなかで被告がなおも右のような態度をとりつづけ、これによつてすでに現実に国鉄労働者の労働が強化され、要員が削減され、労働条件の低下と生活不安と焦燥とがおこつている以上、被告の猛省を促し、労働者の犠牲を排除する必要があるとしてあわせて当時さらに懸案となつていた後述の乗務員の乗務粁制限問題等についての原告組合の要求貫徹をも目標に掲げて、同年九月二二日の乗務員の一〇割休暇斗争を最大の頂点とする実力行使(以下、これを「九・二二斗争」という。)を行なうことを計画し、これを背景として被告に対し団体交渉を申し入れた。

そして、この団体交渉の結果、同月二〇日、つぎのような内容の「『国鉄近代化計画実施についての基本了解事項』の実施に関する覚書」以下「覚書」という。)等が締結された。

「1 対象事項の乙に対する内容提示については、計画中のものも含めて協議する。

2 協議の結論は、文書により確認の手続をとる。

3 実施に当つて、労働条件に関する事項については、慎重にとり扱い両者の了解を図ることを原則とする。

4 協議を円滑に行うため、毎月一回以上中央、地方を通じ、甲、乙の協議を行う。」

(ⅴ) 「覚書」締結後の状況

昭和三五年に入ると、さきに述べたように被告が第一次五か年計画を修正して第二次五か年計画を設定しなければならない事態に陥つたことなどから、近代化・合理化をめぐり、各地での労使の対立はふたたび激化していつた。ことに、原告組合側からみて被告側に中央での協定を無視する態度がみられたこと、また、同年五月に入ると、原告組合からさきにダイヤ作成基準について申入れをし交渉を継続中であつたにもかかわらず、被告が同年六月(北海道は七月)から一方的にダイヤ改正を行ない、労働条件に密接に関係するロングランや運転時分の短縮などを行なおうとしていることが明らかになつたことなどから、原告組合は、地方評議会単位に拠点斗争を組織し、ロングラン阻止などを目的としてたたかうことを決定した。そして、その結果、札幌地方本部盛岡地方本部・天王寺地方本部(以下地方本部を地本と略称することがある。)などにおいて、なかには一〇割休暇斗争などを含む実力行使が展開されていつた。

(2) 乗務粁制限問題について

(ⅰ) 内達一号とそのもとにおける乗務員の労働条件

国鉄乗務員の勤務時間は、昭和二四年五月以来被告の発した内達一号によつて規制されていた。すなわち、乗務員の勤務時間には実乗務時間・便乗時間・準備時間・徒歩時間・待合せ時間等があるが、内達一号は、これらを一定の割合によつて換算し、一日の平均換算時間の基準を蒸気機関車と気動車の乗務員および電車運転士については五時間三〇分、電気機関車と暖房車の乗務員については五時間四五分と定めていた。

この内達一号が制定された当時は蒸気機関車が動力車の主力を占めていたが、その後電化等による動力車の近代化が進むなかで、列車は次第にスピードアップされ、ロングラン化され、この傾向は、昭和三二年度から始まつた国鉄近代化計画の実施によつていつそう急速化していつた。

そして、この列車のスピードアップは、必然的に、乗務員の勤務時間内における乗務粁を増大させ、それは、また、一定時間内に安全を確認すべき信号・踏切り等の増加を伴い、乗務員の労働密度の強化となつてあらわれた。

(ⅱ) 内達一号に対する原告組合の態度

原告組合は、昭和二六年五月の発足当初から、国鉄乗務員の労働条件を決定するうえでもつとも基本的な要因は列車の速度であるとの見解のもとに、勤務時間と乗務粁の二面から規制を加えるべきであると主張したが、被告側のいれるところとならなかつた。

その後前述の動力車の近代化が次第にすすみ、それが乗務員の労働強化となつてあらわれてきたことから、原告組合は、昭和三〇年一二月、被告に対し、乗務員の一日当たりの乗務粁制限等を交渉事項とする団体交渉を申し入れ、交渉を繰り返したが、なんら結論をうるに至らず、結局、昭和三四年三月、乗務粁制限等四項目を今後の交渉目標として確認するにとどまつた。

そこで、原告組合は、同年四月一日、被告に対し、あらためて、乗務粁制限について列車種別一基準日当り乗務粁と一継続乗務粁の最高を制限することなどを内容とする具体的提案とともに団体交渉を申し入れ、これに基づいて団体交渉が行なわれたが、被告がこれでは乗務員の運用ができなくなるとして原告組合の要求を拒否するなど、交渉に進展はみられなかつた。そして、その間にも近代化計画によるスピードアップ・ロングラン化はいつそう増大していく一方であつたため、原告組合は、前述のように、同年七月の第九回全回大会において、前記事前協議制確立問題にあわせ、乗務粁制限問題をも目標の一つに掲げて九・二二斗争を組織することを決定し、これを背景として団体交渉にのぞんだ。その結果、同年九月二〇日、事前協議制確立問題については前述の「覚書」が締結され、乗務粁制限問題についてはつぎのような内容の「昭和三四年九月における動力車乗務員の労働条件に関する諸懸案事項に関する協定」が締結された。

「(一) 動力車乗務員に関し、動力車近代化に即応するよう勤務時間、乗務粁、給与等の労働条件について総合的な労働協約を締結するため、現行内達一号の検討を含めて今後協議する。

(二) 乗務粁制限については、引続き協議する。(以下省略)」

この協定締結によつて乗務粁制限を初めとする乗務員の労働条件についての協議はようやく一歩進展するかに見え、被告は、翌昭和三五年一月末、乗務粁制限について当局側の案を提示してきた。しかし、当局案の内容は、原告組合の要求と大きな隔たりがあり、双方の主張は根本的に対立し、交渉の早期妥結は困難であつた。これに加えて、その間にも、各地方において、新動力車の投入により逐次ダイヤ改正が行なわれ、そのたびごとに乗務粁が延長される問題が発生し、各所に労使の紛争がひん発した。

(3) 本件争議行為の企画・決定について(主として原告惣田、同馬場および同中江関係)

(ⅰ) 第一〇回全国大会の開催

原告組合は、右(ⅰ)、(ⅱ)において述べてきたような状況のなかで、昭和三五年六月二五日、第一〇回全国大会を開催し、そこにおいて、国鉄近代化計画について、これまで「基本了解事項」あるいは「覚書」等により逐次組合の要求を前進させてきたが、当局側はなお一方的強行の態度を変えておらず、これをこのまま放置すれば必然的に動力車乗務員の労働条件の悪化は免れず、ひいては安全輸送の確保もおぼつかなくなるとの認識のもとに、被告に完全な事前協議協定等の締結に応じさせるため、強力な全国斗争を組織し、昭和三六年の春斗の段階までに決着をつけることなどを決定した。

(ⅱ) 第三四回中央委員会の決定

原告組合は、昭和三六年一月一九日から福島県常磐市において第三四回中央委員会を開き(この事実は当事者間に争いがない。)、原告惣田、同馬場および同中江も中央執行委員としてこれに出席のうえ、そこにおいて、第一〇回全国大会の前記決定の趣旨をうけて、国鉄近代化計画に関する事前協議制の確立ならび乗務員の乗務粁制限を斗争の主要目標として、同年三月一五日に実力行使を行なうこと、この斗争のために中央斗争委員会を発足させること、右斗争の具体的な戦術等については中央斗争委員会が全国組織部長会議の意見を聞いて最終的に決めることなどを決定した。

(4) 中央における斗争体制の確立について

(ⅰ) 中央斗争委員会の発足

原告組合は、前記中央委員会の決定に基づき、昭和三六年二月一日中央斗争委員会を発足させ、同日付本部斗争指令第一号をもつて、中央斗争委員会の構成と役割分担を発表するとともに、各地方本部においても地方本部委員会終了後直ちに執行体制を斗争体制に切り替え、斗争委員会を発足させるよう指令した。

なお、右指令によれば、中央斗争委員会は、中央斗争委員長には車田中央執行委員長が、中央斗争副委員長には林中央執行副委員長および新井書記長が、中央斗争委員には書記次長、原告惣田、同馬場および同中江を含む中央執行委員全員および分科会専従者全員がそれぞれ就任し、その総勢は二八名であつた。

(ⅱ) 全国組織部長会議の開催

中央斗争委員会は、本件斗争の戦術等について意思統一をはかるため、同年三月六日、東京において、全国から各地方評議会および地方本部の代表者約五〇名を集め、中央斗争委員長以下原告惣田、同馬場および同中江も出席のもとに、全国組織部長会議を開催した。右会議においては、中央斗争委員会から、旭川地本(旭川支部)、青函地本(長万部支部)、盛岡地本(青森支部)、水戸地本(水戸支部)、静岡地本(浜松支部)、天王寺地本(奈良気動車区支部)、四国地本(高松支部)、広島地本(広島第二支部)、鹿児島地本(鹿児島支部)および新潟地本(新潟支部)の一〇か所を拠点として同月一五日午前〇時から同九時まで乗務員を中心とする一〇割休暇斗争に突入する旨の斗争戦術案が発表され、これに対し、斗争拠点となる右各地方本部の意見発表・情勢分析あるいは意見調整などを行なつたうえ、右一〇拠点において原案どおり実力行使を実施することを決定した。

(ⅲ) 本部斗争指令第六号の発布と派遣中斗の現地派遣

中央斗争委員会は、同月七日、会議を開き、前記全国組織部長会議の結果に基づき、前記一〇拠点において同月一五日午前〇時から同九時まで乗務員を中心とする一〇割休暇斗争を実施することを決定し、同月八日、本部斗争指令第六号をもつて、その旨の指令を発した。

また、右三月七日の中央斗争委員会においては、本件争議行為の具体的戦術についても討議され、①前記各斗争拠点における具体的な斗争指導のため中央斗争委員を派遣すること、原告惣田は水戸地本関係の派遣中央斗争委員として水戸地区に、原告馬場は広島地本関係の派遣中央斗争委員として広島地区に、原告中江は静岡地本関係の派遣中央斗争委員として浜松地区に赴くこと、②支部は組合員各人から有給休暇申請書を取り集め、これを一括して争議行為突入前日に被告側に提出すること、③乗務員に対する説得活動は、十分に話し合い、本人の理解と協力を得、自発的に参加するように仕向けることをねらいとすること、④右説得活動には原告組合の組合員のみがこれに当たること、⑤本件斗争の斗争戦術は休暇斗争であるから、原則として列車の進行を実力をもつて妨害することはしないこと、⑥組合員は、行動に際しては、必ずあらかじめ定められた責任者の指揮に従つて整然と行動すること、⑦列車事故等不測の事態を避けるため、国鉄構内には部外者、すなわち、国鉄職員たる身分を有しない支援労働組合の組合員を立ち入らせず、右部外の支援労働組合員には国鉄構外で激励集会をしてもらうことなどが決定された。そして、右中央斗争委員会の終了直後、その指名を受けた原告惣田、同馬場および同中江ら各中央斗争委員(派遣中斗)が各斗争拠点に向けて出発し、前記決定をみた具体的な斗争戦術は右原告ら三名を含む各派遣中斗によつて口頭指令として現地に伝達された。

(ⅳ) 公労協戦術委員会に対する支援要請

原告組合は、そのころ、公労協戦術委員会に対し、右斗争拠点となつた一〇地方本部に公労協・地区労を中心とする大動員をもつて支援するよう要請した。

(ⅴ) 本件争議行為への突入

原告組合は、右のように斗争体制の確立をはかる一方で、事前協議制確立の問題については同年二月二四日を第一回として同年三月一四日の二二時五〇分まで前後八回にわたつて、乗務粁制限を含む動力車乗務員の労働条件については同年二月二日を第一回として同年三月一四日の二三時一〇分まで前後一二回にわたつて、被告と団体交渉を繰り返した。そして、これらの交渉を通じて個々的には歩み寄りのみられた点もあつたが、基本的にはなお対立して妥結をみるに至らず、同月一五日午前〇時の到来とともに、原告組合は本件争議行為に突入した。

(二) 旭川地区の状況(原告八鍬関係)

原告八鍬が昭和三五年七月二五日から二七日まで留萠市労働会館で開催された原告組合旭川地方本部の第一〇回定期大会において同地方本部の書記長に再選され、さらに同年八月六日旭川市で開催された同地本の第一回執行委員会において組織部長および総務部長に併任され、そのころそれらの役職に就任し、その後昭和三六年二月八日地本の大会または委員会の決議の範囲内で斗争手段を決定する権限を有する同地本の斗争委員会の副斗争委員長に就任し、なお同年二月二三日旭川地方公労協春斗特別戦術委員会が発足した際、同戦術委員会の事務局長に就任したことは、当事者間に争いない。

〈証拠〉を総合すれば、次の事実が認められる。但し〈証拠判断省略〉。

原告組合が昭和三六年一月一九日第三四回中央委員会において本件争議行為を敢行することを決定したことは前認定のとおりであるが、原告八鍬は旭川地本より選ばれた中央委員として右会議に出席し、本件争議行為の決定に参画した。

北海道地本評議会は、昭和三六年三月四日北海道常任評議委員会を開催し、旭川地本から原告八鍬も出席して前認定の三月六日(以下年度を特に表示しないのは昭和三六年である。)に東京で開催される全国組織部長会議に臨む同評議会の態度を協議したが、同組織部長会議において北海道のどの地本が斗争の拠点として設定されても、北海道全体が戦術委員会の決定した方針に基づいて協力して斗争に参加することを決定し、そこで北海道地方評議会委員長を委員長とし、各地本から二名づつの戦術委員を選任して、これをもつて北海道戦術委員会を組織したが、原告八鍬は、旭川地本から選出された戦術委員として、右戦術委員会の構成メンバーとなつた。

原告組合が三月六日東京都で原告組合の全国組織部長会議を開催し、同会議において同月一五日午前〇時から午前九時まで乗務員の一〇割休暇斗争の実力行使を実施することおよび斗争拠点の一として旭川支部を加えること等を決定したことは、前認定のとおりである。原告八鍬は、組織部長としてその会議に出席して、右決定に参画し、旭川支部が斗争拠点に指定されると、直ちに通知するとともに、旭川支部に対する重点オルグ体制を計画しておいてもらいたと依頼した。原告組合の中央斗争委員会が右決定に基づき、三月七日旭川地本に対し前記のような斗争指令第六号を発したことは前認定のとおりである。旭川地本は、同日これに基づいて、各支部長あて地本春斗指令第五条を発し、旭川支部において斗争を行うから、乗務員の三月一五日全一日間の年次有給休暇申請書を同月一一日を目途に集約することおよび合理化斗争の意義を各組合員に徹底するように指令した。旭川機関区は、旭川鉄道管理局管内の最大の機関区であり、当時同機関区に所属する機関士は一五二名、気動車運転士は二〇名、機関助手は一一六名、機関助手見習は五名であるが、うち原告組合員は、機関士が一四七名、気動車運転士が一九名、機関助手が一一六名、機関助手見習が五名である。

旭川鉄道管理局長来豊平は、三月一〇日付旭総第四〇一号をもつて、右斗争は違法行為であるからすみやかに斗争計画を中止するよう申し入れた。しかし、旭川地本は、三月一一日原告八鍬も出席のうえ、拡大斗争委員会を開き、前記指令第六号の具体的消化策を協議し、各斗争委員が旭川支部にオルグとして赴き、各組合員に斗争参加を呼びかけることを決定するとともに、同日付指令第八号をもつて旭川支部斗争委員長および各支部斗争委員長に対し、旭川支部は、三月一五日午前〇時から午前九時まで乗務員(関連乗入れ支部乗務員を含む。)の休暇斗争を実施するよう指令した。一方そのころ旭川支部内には、戦術ダウンの名目をもつて、組合脱退届に署名する者が続出していたので、三月一三日原告八鍬も出席して、乗務員百数十名の参加のもとに乗務員大会を開き斗争参加の是非について論議した。一部組合員から斗争参加について否定的な発言もなされたが、前記戦術委員等の強力な斗争参加要請により、斗争参加を決議した。原告八鍬は、三月一三日旭川機関区長室に赴き、同機関区長松本茂治に対し、旭川機関区において三月一五日午前〇時から午前九時まで乗務員の一〇割休暇斗争を実施することと、そのため乗務員を午前〇時から一二時まで特定の場所に収容する旨申入れをした。同区長は、原告八鍬に斗争を中止するように説得したが、原告八鍬はこれを拒否し、当局と組合との交渉についての窓口は、同原告が当たると述べていた。

この間旭川地本委員長草野政男は、前記斗争指令に強い不満をいだき、しばしば原告組合中央本部に対し、反対意見を述べてきたが、その意見が容れられなかつたので、三月一三日午後一〇時ころ組合脱退を決意し、脱退届を地本に提出した。一方、旭川支部は、そのころ斗争委員会を開いて前記斗争指令を返上することを決議し、三月一四日その旨地本に通告するとともに、旭川支部委員長渋谷雄三郎は、旭川機関区長松本茂治に対し同支部の三月一五日の乗務員一〇割休暇斗争指令を返上したので、通常どおり勤務につくとの申入れをした。

しかし、同地本の残留幹部は、右指令返上は無効であるから、一人一人の説得によつてでも斗争を遂行すべきであるとして着々準備をすすめていた。そこで旭川鉄道管理局長来豊平は、三月一四日に同局長室に原告八鍬らを招き、同原告らに対し、旭川支部が前記のとおり旭川機関区長に指令返上を通知したことを述べ、斗争を中止するように勧告したが、原告八鍬は「斗争通知は昨日同原告の責任でしたものであるから、支部委員長から指令返上の申入れがあつても駄目だ。支部委員長は個人の立場でしたのではないか。」といつて、これを拒否した。さらにその際、同管理局総務部長野村信一が「責任者は誰か。指令や命令を出すのは誰か。」と尋ねたところ、国労の大場委員長は、「責任者は国労では大場委員長であり、動労では原告八鍬である。」と答え、原告組合の派遣中央斗争委員田中は、「中斗指示は自分が出すが、地本の命令は原告八鍬自身が出す。」と答え、原告八鍬は、「最高責任者は中央斗争委員長になるし、地本の責任者は私である。」と答えた。

原告八鍬ら旭川地本の残留幹部は、数回の勧告を無視し、国鉄労働組合および公労協の支援を求めて、一五日午前〇時から実施する旭川機関区の実力行使斗争を実効あらしめるため、同機関区構内に出入する機関車の運行を妨害し、その運行を不能ならしめることの計画を協議決定した。すなわち、三月一四日午後一時から原告八鍬外一〇名の戦術委員が出席して戦術委員会を開き、各戦術委員の分担と配置、動員体制、実力行使の方法等について次のとおり決定したのである。原告八鍬の担当は本部との連絡、報道、予算企画とする。動員力は地区労および内部(原告組合員)動員数の合計を約一、〇〇〇名とみて、表関門に外部動員五〇〇名、内部動員四〇名、裏関門に外部動員二〇〇名、内部動員三〇名を配置し、その外に遊撃隊として内部動員八〇名、外部動員三〇名、予備隊として一七〇名を配置する。これらの動員は、機関車に乗り込むなどして乗務員一人一人を説得降車させて斗争に参加させ、また乗務員代務として非組合員が乗車しているときは、運転が危険であることを説いて運転を中止させることを協議決定したのである。かくして、三月一四日午後六時ころから旭川地本の組合員国鉄労働組合(以下国労という。)旭川地本の組合員その他の支援団体員からなる約数百名のピケ隊が旭川機関区構内になだれ込み始めた。同日午後八時一〇分ころ、同機関区助役室において、点呼を受け終つた二名の乗務員が旭川地本役員から斗争への参加を説得されていた。これを目撃した原告八鍬は、右乗務員のかたわらに数名の職制がいて、右説得の状況を監視しているようにみえたので、右乗務員を激励し、合せて監視している職制に圧迫を加えようとして、数十名の組合員を連れて掛声をかけ、デモ行進を行ないながら右助役室を通り過ぎたのである。同日八時三〇分ころ機関区長松本茂治は、同区長室に原告八鍬を招致し、機関区構内に立入つているピケ隊員の退去方を通告したが、同原告はこれに応じなかつた。同日午後一一時三〇分ころには、ピケ隊員全員が機関区事務室附近にある更衣室に集合のうえ、部外単産指導者も参加して激励大会(決起大会)を開いたが、席上原告八鍬は、その司会を勤めるとともに、経過報告を行なつた。

同月一五日午前〇時五分ころ、原告八鍬は、旭川機関区長松本茂治に対し、同機関区乗務員の一〇割休暇斗争を行なう旨申し入れ、同日〇時から九時までの勤務時間帯にある乗務員を主力とする年次有給休暇申請書四九枚を提出したが、同区長はその受理を拒否した(休暇申請書提出の事実は、当事者間に争いない。)。なお、右時間帯に旭川機関区から出務すべき乗務員は、三・四〇名であつた。そして、そのころからピケ隊員のうち約二〇〇名が機関区事務室前の表関門附近(炭水三番線三号転てつ器附近)に、うち約二〇〇名が裏関門附近(炭水一番線二四号転てつ器附近)に、うち約二〇〇名が運転助役詰所前附近にそれぞれ移動し、実力行使の配置につき、次に述べるように原告組合員、国労、公労協の組合員等が旭川機関区内に出入する機関車が通過すべき出区線上に立ちふさがつたりして、機関車の運行を妨害したため、列車の運休または遅延が続出した。その状況は、次のとおりである。

1旭川機関区表関門における機関車の運行妨害

(1) 五〇三準急旅客列車

三月一五日午前〇時四〇分ころ第五〇三準急旅客列車のけん引機関車となるため、旭川機関区炭水三番線から旭川駅一番線に至るD五一一〇〇九号機関車(機関士小橋武雄、機関助士高橋昭)が右炭水三番線から出区して同線六号転てつ器付近にさしかかつた。その際、同機関区事務室前炭水三番線三号転てつ器附近に集結していた原告組合および国労の組合員ならびに公労協の支援団体員からなるピケ隊員約二〇〇名のうち約一五名が右機関車の進路で腕を組んで人垣を作り、ピケを張つていた。そして機関車が進行のため汽笛を吹鳴すると歓声をあげて線路内になだれ込んでその進行を阻止し、機関車が止まれば線路の両側に退いてこれを明けるという方法を繰り返し、一時三〇分ころまで機関車の進行を妨害した。そこで、右機関車は第五〇三準急旅客列車に連結が不可能となり、同列車はやむなく機関車を交換しないで旭川駅を出発した。このため同列車は、二七分遅発するに至つた(遅発時間は当事者間に争いない。以下列車の運休および遅発時間については、後記浜松地区の第二四旅客列車の発車時間を除き、当事者間に争いないが、いちいちその旨の摘示をすることを省略する。)。

(2) 第五六一貨物列車

同日午前一時五〇分ころ第六一貨物列車のけん引車となるため、旭川機関区炭水三番線から旭川駅一番線に至るD五一三九八号機関車(機関士斉藤喜代治、機関助士野坂豊毅)が右炭水三番線から出区して同線六号転てつ器付近にさしかかつた。その際前記(1)記載のピケ隊員のうち約二〇名は、(1)で述べたと同様の方法で機関車の進路にピケを張つて機関車の進行を妨害し、うち数名が機関車に乗り込んで来て、機関車の乗務員を説得し、不承不承の右乗務員を降車させて連行した。そこで右機関車に乗車していた北見機関区助役細川幸雄および深川機関区留萠支区助役石橋正雄が代務として運転したが、なおもピケ隊に進行をはばまれ、右機関車は、一寸きざみに進行し、やつと旭川駅に至り、第五六一貨物列車に連結することができた。そのため右列車は、五四分遅発するに至つた。

(3) 第五六三貨物列車

同日午前三時一〇分ころ第五六三貨物列車のけん引機関車となるため、旭川機関区炭水三番線から旭川駅二番線に至るD五一四八四号機関車(機関士春名昇、機関助士川田敏)が右炭水三番線から出区しようとしたが、同線三号転てつ器附近で前記(1)で記載したピケ隊員二〇〇名が(1)で述べたと同様の方法でピケを張り、午前四時四〇分ころまでこれを継続し、右機関車の進行を妨害したので、同機関車は同時刻まで出区不能となつた。そのため右列車は旭川駅を三時間遅発するに至つた。

(4) 第三六三貨物列車

同日午前二時三八分ころ第二五三貨物列車の機関車(機関士榎本光男、機関助士小島忠)として旭川駅一番線に到着したD五一六〇八号機関車は旭川機関区炭水三番線において、水、石炭等を補給して第三六三貨物列車のけん引機関車(機関士井馬勝太郎、機関助士浅利勉)となるべきところ、右進路である炭水三番線三号転てつ器附近に前記(1)で記載したピケ隊員約二〇〇名が(1)で述べたと同様の方法でピケを張つて機関車の出入を妨害した。そのため第三六三貨物列車は二時間二四分遅発するに至つた。

(5) 第七一貨物列車

同日午前三時四〇分ころ第七一貨物列車のけん引機関車として旭川機関区炭水三番線から旭川駅四番線に至る四九六三一号機関車(乗務員、代務北見機関区助役宮越新一、深川機関区留萠支区長山崎重吉)が右炭水三番線から出区しようとしたが、同線三号転てつ器附近で前記(1)で記載したピケ隊員約二〇〇名が(1)でのべたと同様の方法でピケを張り、午前四時四〇分ころまで右状態を継続したので、その間右機関車は出区不能となつた。そのため右列車は一時間四七分遅発するに至つた。

2旭川機関区裏関門における機関車の運行妨害

(1) 第一六二貨物列車

一五日午前〇時四〇分ころ第一六二貨物列車のけん引機関車として同機関区炭水一番線から旭川駅六番線に至るD五〇一四三号機関車(乗務員、機関士後藤謙三、機関助士沢田修)が炭水一番線から出区し、同線の二四号転てつ器附近まで進行したところ、原告組合および国労の組合員ならびに公労協支援の団体員からピケ隊員約二〇〇名が進路に立ちふさがり、うち数名が機関車に乗り込んできて右乗務員二名を説得して降車させ、連行してしまつた。そこで乗務員の代務として深川機関区助役信本直彦および稚内機関区助役富塚竹一が右機関車を運転して進行しようとしたところ、右ピケ隊員はなおも進路に人垣を作つてピケを張り、機関車の運行を不能にした。そのため、右列車は運転を休止するのやむなきに至つた。

(2) 入換作業(入一〇番)

前記(1)のとおり、ピケの状態が同日午前四時三〇分ころまで継続したため、D五〇一四三号機関車は前記箇所で運行不能の状態になつた。そのため同日一時四〇分ころに同機関区から旭川駅構内に至り、同駅構内で入換作業(入一〇番)を行なうべき四九六三一号機関車(乗務員、代務旭川駐在運輸長付松村政尚、北見機関区助役藤井肇)が一時三〇分ころ発車準備が完了していたが、前記箇所を通過することができず、やむなく二時一五分ころ旭川駅構内にあつた四九六六五号機関車に乗継ぎ、これで入換作業を実施した。そのため右作業は、二時四〇分ころ完了し、一時間遅延するに至つた。

(3) 第三〇八準急旅客列車

同日午前二時三〇分ころ第三〇八準急旅客列車のけん引機関車として同区炭水一番線から旭川駅三番線に至るべきC五五一七号機関車(乗務員、代務旭川機関区助役野崎清治、北見機関区助役菊地武次)も前記(2)でのべたと同様な理由で運行不能となつたので、第三〇八列車の機関車は第三九六列車に使用したD五一一一〇一号機関車を使用した。そのため右列車は一時間三五分遅発するに至つた。

(4) 第一七〇貨物列車

同日午前二時四五分ころ第一七〇貨物列車のけん引機関車として同機関区炭水一番線から旭川駅五番線に至るべきD五一九三五号機関車(乗務員、代務名寄機関区音威子府支区長佐久間惣一、深川機関区助役山田広利)も前記(2)でのべたと同様な理由で運行不能となつた。そのため右列車は遂に運転を休止するに至つた。

(5) 第五〇四旅客列車

同日午前二時二〇分ころ第五〇四旅客列車のけん引機関車として同機関区車庫四番線から旭川駅三番線に至るべきD五一一四九号機関車(乗務員、代務稚内機関区助役吉田常八、同小沢正直)も前記(2)でのべたと同様な理由で運行不能となつた。そのため右列車は一時間二八分遅発するに至つた。

(6) 第九五八六貨物列車

同日午前〇時五八分ころ第九五八六貨物列車の機関車として旭川駅六番線に到着し、同駅西入換一番線に留置してあつたD五一六六〇号機関車(乗務員、代務旭川機関区助役高橋輝雄、浜頓別運輸区助役相沢鶴来)は旭川機関区炭水二番線において水、石炭等を補給して第六二貨物列車のけん引機関車となるべきところ、右進路にあたる箇所が前記(2)でのべたと同様な理由で運行不能となつた。そのため右列車は一時間三八分遅発するに至つた。

(三)  水戸地区の状況(原告惣田、同新妻、同関および同荘司関係)

原告惣田が水戸地本関係の派遣中央斗争委員として水戸地区に赴いたこと、原告新妻が昭和三五年七月一五日平市において開催された原告組合水戸地本の第五四回委員会において同地本の執行委員長に選任され、同月三一日右役職に就任し、かつ昭和三六年二月一〇日同地本の大会または委員会の斗争に関する決議を執行し、その決議の範囲内で斗争手段を決定する権限を有する同地本斗争委員会の斗争委員に就任したこと、原告関が昭和三五年六月一日水戸市において開催された原告組合水戸地本水戸支部委員会において同支部の執行委員長に選任され、そのころ右役職に就任し、かつ昭和三六年二月一〇日水戸地本斗争委員会を構成する斗争委員に就任したこと、原告荘司が昭和三五年七月二八・九日の両日にわたり群馬県河原湯温泉で開催された原告組合東京地本の第一〇回定期大会において同地本の執行委員に選任され、同月二九日右役職に就任したことは、当事者間に争いない。

〈証拠〉を総合すれば、次の事実が認められる〈証拠判断省略〉。

原告組合は、三月六日東京において全国組織部長会議を開催し、同会議において三月一五日午前〇時から午前九時まで乗務員の一〇割休暇斗争を実施することを決定したことは前認定のとおりであり、その際斗争拠点の一として水戸支部を加えることを決定したことは、当事者間に争いない。原告新妻は、水戸地本から選出されて右会議に参加し、右決定に参画した。原告組合中央斗争委員会が右決定に基づき、水戸地本に対し前記のような指令第六号を発したことは、前認定のとおりである。

原告惣田は、三月八日派遣中央斗争委員として水戸地区に赴いた。なお、原告組合は、拠点以外の地本は、動員をもつて斗争を支援することを決定し、各地方本部に指令したが、この指令を受けた東京地本は、三月八日ころ東京都において原告荘司らを構成員とする東京地本斗争委員会を開催し、水戸地区における前記一〇割休暇斗争を支援するため、原告荘司らを含む所属役員および組合員を動員して、現地に派遣することを決議した。原告荘司は、この決議に基づき三月一三日水戸地区に赴いたのである。

原告組合中央斗争委員会から前記指令第六号を受けた原告新妻は、水戸地本斗争委員長として三月八日に水戸地本斗争委員会を開催し、原告惣田は派遣中央斗争委員として、原告関は水戸地本斗争委員として右斗争委員会に出席して、右原告ら三名は、次の事項を協議決定した。すなわち、三月一五日午前〇時から午前九時まで水戸支部において一〇割休暇斗争を実施すること、このため水戸機関区の組合員は全員同日休暇申請をし、また水戸機関区以外の機関士、機関助士にして代替要員となる者に対して説得してその乗務を阻止すること、乗務員の出務を阻止するため原告組合で確保した旅館に乗務員を収容すること、右斗争時間帯においては場合によつては実力を行使しても列車の運行を阻止すること、傘下各支部に対してはピケ隊員の派遣を求め、茨城県労働組合連盟および国労水戸地本に対してはピケ隊員の派遣を要請すること、全斗争委員は同日から直ちにオルグとして活動を開始し、組合員に斗争参加を呼びかけ、休暇申請者に署名を求め、かつ斗争当日は組合指定の旅館に行くよう説得すること等を協議決定したのである。原告新妻は、右決定の趣旨を傘下各支部に指令し、かつ茨城県労働組合連盟および国労水戸地本にピケ隊員の派遣を要請した。

この指令を受けた原告関は、水戸支部執行委員長として、これを支部所属組合員に指令し、三月一〇日には「組合員各位に告ぐ」と題して、近代化合理化反対、事前協議制の確立、乗務粁制限を目的として、乗務員を主体とした全員休暇斗争を行なうから組合員の協力を要望する旨の掲示を水戸機関区乗務員詰所内の掲示板に掲出した。水戸機関区長石田宏は、三月一一日に各乗務員の自宅あて、原告組合が一〇割休暇斗争を計画し、違法なストライキを実施するときくが、職員は良識ある行動をとることを要望する旨の書面を送り、かつ同文の掲示を機関区の掲示板に掲出した。これに対し原告関は、支部執行委員長名をもつて、機関区長から各家庭に通信が郵送されるが、開封せずに支部に持参するよう記載した掲示を同機関区乗務員詰所内の掲示板に掲出した。

石田機関区長は、三月一二日休暇申請は許可しない旨の掲示をした。原告関は、同日午後一時三〇分ころ水戸支部斗争委員長名をもつて、三月一三日午後一時三〇分から水戸機関区において総決起大会を開催する旨および組合員が多数参加するよう記載した文書を機関区乗務員詰所内の掲示板に掲示した。右総決起大会は、三月一三日午後一時四〇分から機関区乗務員詰所において、原告惣田、同新妻、同関ら組合役員が列席し、組合員約五〇名が参加して開催されたが、原告惣田、同新妻らは交互に激励演説をし、同大会は午後三時一〇分ころに及んだ。

原告組合は、三月一三日現地で、高崎、水戸、千葉および東京の各地本執行委員長以下本部の三役、専従役員、関東地評議長、同事務局長等からなる関東ブロック拡大戦術会議を開き、原告惣田、同新妻、同関および同荘司も出席して、同原告らは、斗争の具体的実施要領、動員者の配置、斗争委員の役割などについて次のとおり協議決定した。すなわち、役員および各地本、支援労組から動員されるピケ隊を指揮班、連絡班、補給班、写真班、機動隊等に区分組織すること、原告惣田は総指揮として、また原告新妻は副指揮として指揮班を構成し、具体的な戦術指示は指揮班によつて協議決定すること、原告関は補給班の責任者となること、機動隊を第一隊から第五隊までに分け、第一隊は機関区の構内、乗務員の詰所、助役室等で、第二隊は上り列車ホームで、第三隊は下り列車ホームで、第四隊は予備として、第五隊は宿舎で、それぞれ乗務員に対する説得活動を行ない乗務を放棄させること、原告荘司は第三機動隊の責任者となり主として下り列車ホームで右活動をするとともに指令の伝達に任ずること等を協議決定したのである。

水戸鉄道管理局長水野正元は、三月一三日水総労第七六六号をもつて原告新妻に対し、業務の正常な運営を阻害する違法な行為をしないように警告を発した。原告新妻は、三月一四日午前一一時一五分ころ原告惣田とともに同鉄道管理局長を訪れ、一五日午前〇時から午前九時まで一〇割休暇斗争を行なう旨通告したが、その際も同局長は右斗争の中止を警告した。また水戸機関区長石田宏もそのころ原告関に対し、一〇割休暇斗争の中止を警告した。

水戸地本所属の組合員は、三月一三日午後一時ころから水戸機関区に集合を始め、三月一四日午前三時ころには約一〇〇名に、同日午後五時三〇分ころには約一五〇名に、同日午後一〇時三〇分ころには約二三〇名に達し、主として同機関区乗務員詰所、運転当直室前廊下、外勤庫内機関士詰所、転車台附近、西誘導掛詰所附近、元資材事務所建物より水戸機関区への通路附近等に分散して配置についた。また一方原告組合の東京、高崎、千葉の各地本から右斗争支援ための参集した組合員は、三月一四日午後七時ころ水戸駅に約一五〇名集合し、同日午後八時三〇分ころには約三〇〇名となり、同駅上りホーム、同駅下りホーム、同駅構内上り、一、二番線附近等に分散して配置についた。これらのピケ隊員は、三月一五日に乗務すべき乗務員が乗務を終了し、当直助役の点呼を受ける前後に、また水戸機関区に助勤を命ぜられ、水戸駅ホームに下車した他機関区所属の乗務員や、同機関区に出勤するため同駅ホームに下車した乗務員に対し、それぞれ斗争に参加するよう説得勧誘し、あるいは組合本部事務所、旅館等に連行し始めた。

原告関は、水戸機関区所属組合員に対するオルグ活動を活発に行ない、機関士、機関助士、機関助士見習に対し休暇申請書の提出を促し、これを取りまとめてきたが、三月一四日午後一一時五五分ころ水戸機関区長室において同区長石田宏に対し、田口登機関士外二二九名の機関士等の署名捺印した休暇申請書を提出した(休暇申請書提出の事実は、当事者間に争いない。)。なお右休暇申請書を提出した機関士等の数は、一五日乗務すべき同機関区所属の機関士等の約九〇パーセントに達している。同区長は、一〇割休暇斗争を目的とした休暇申請は認められないとして、右休暇申請書の受領を拒否し、正規の業務につくことを要求したが、原告関はこれを拒否して休暇申請書を机上において退去した。

一四日午後一一時五五分ころ原告惣田の名をもつて、被告側に対し、ストライキ突入の旨の通告がなされた。そのころ原告組合側によつて旅館に収容されていた乗務員は約三〇〇名であり、一方被告側が確保していた乗務員は約二〇名であつた。

その後も乗務員に対する説得連行や列車の運行に対する妨害が三月一五日午後四時ころまで継続された。そのため、同日乗務すべき多数の乗務員が長時間欠務し、また列車の運休や遅延が続出した。その詳細は次のとおりである。

1水戸機関区関係乗務員の連行

(1) 第四七六五単行機関車関係

三月一五日第四七六五単行機関車に乗務すべき水戸機関区所属の機関士石井明が同月一四日第九九六一貨物列車の乗務を終了し、午前三時三〇分ころ同機関区運転当直室において森島三郎、生田目秀雄両助役の点呼を受け廊下に出たところ、水戸機関区に集合していた前記本文記載のピケ隊員のうち約一二名に「御苦労」と声をかけられてとり囲まれ、原告組合の水戸地方本部事務所(以下地本事務所という)に連行され、同所で同日正午ころまで留置後、自動車で松本旅館に連行され、翌一五日午前四時ころまで同旅館に軟禁のうえ、宣伝カーで前記地本事務所に連行せられ、同五時ころ解放された。

そのため同人は三時間五一分欠務し、同人が乗務すべき第四七六五単行機関車は水戸・高荻間の運転を休止するのやむなきに至つた。

(2) 仕業ダイヤ(入換第八)関係

同月一五日仕業ダイヤ(入換第八)を担当すべき同区所属の機関士黒川正吉、機関助士天賀谷敏夫の両名は、同月一四日仕業ダイヤ(入換第一〇)の乗務を終了し、午前五時一〇分ころ同機関区運転当直室において森島三郎、生田目秀雄両助役の点呼を受け終つたところ、同機関区に集合していた前記本文記載のピケ隊員のうち原告荘司の指揮する約一〇名に「行こう。」と声をかけられ、右ピケ隊員にとり囲まれて地本事務所に連行され、さらに自動車で松本旅館に連行せられ、翌一五日午前四時ころまで同旅館に軟禁されたうえ、地本事務所に連行せられ、同五時ころ同所において解放された。

そのため同人らは一時間二〇分欠務するに至つた。

(3) 第九七一貨物列車関係

同月一五日第九七一貨物列車に乗務すべき同区所属の機関士奥津郁治、機関助士橋本幸雄の両名は、同月一四日第九七三貨物列車の乗務を終了し、午前六時二二分ころ同機関区運転当直室において森島三郎、生田目秀雄両助役の点呼を受け終つたところ、原告荘司に「皆のために斗争をやつているのだから組合の指令に従つたらどうだ。」と言われ、肩をたたかれ「さあ行こう。」と促され、同機関区に集合していた前記本文記載のピケ隊員のうち八・九名にとり囲まれ地本事務所に連行され、さらに自動車で松本旅館に至り、翌一五日午前四時半ころまで同旅館に軟禁せられた。

そのため同人らは三時間七分欠務し、同人らの乗務すべき第九七一貨物列車は石岡・高荻間の運転を休止するのやむなきに至つた。

(4) 第六四二五客車回送列車関係

同月一五日第六四二五客車回送列車に乗務すべき同区所属の機関士助川正、機関助士鈴木貞雄の両名は、同月一四日第四二五旅客列車の乗務を終了し、同機関区運転当直室において森島三郎、生田目秀雄両助役の点呼を受けて、同日午前七時四〇分ころ乗務員詰所に入つたが、同機関区に集合していた前記本文記載のピケ隊員のうち約七名にとり囲まれ、地本事務所に連行され、さらに九時ころ自動車で松本旅館に連行のうえ翌一五日午前四時ごろまで同旅館に軟禁せられた。

そのため同人らは二時間一七分欠務するに至つた。

(5) 第二九四貨物列車関係

同月一五日第二九四貨物列車に乗務すべき同区所属の機関士小園井博、機関助士上田宏の両名は、同月一四日第二九五貨物列車の乗務終了後、午前八時二一分ころ同機関区運転当直室において森島三郎、生田目秀雄両助役の点呼を受け終つたところ、同機関区に集合していた前記本文記載のピケ隊員のうち約八名に「地本へ行こう。」と説得せられたが、同人らは「一旦帰宅させて欲しい。」と言つたにもかかわらず、原告荘司は同人らの肩をたたき「さあ行こう。」と声をかけ、同人らは右ピケ隊員にとり囲まれ、地本事務所に連行のうえさらに松本旅館に至り、同旅館に翌一五日午前四時ころまで軟禁せられ、自動車で地本事務所に連行のうえ同五時ころ解放せられた。

そのため、同人らは二時間二三分欠務するに至つた。

(6) 第九六二貨物列車関係

同月一五日第九六二貨物列車に乗務すべき同区所属の機関士高畑孝一、機関助士金子満の両名は同月一四日第九六三貨物列車の乗務を終了し、同機関区運転当直室において佐藤延忠、黒田秀雄両助役の点呼を受け終つて乗務員詰所に入つたところ、同日午前九時三〇分ころ同機関区に集合していた前記本文記載のピケ隊員のうち約五名に「組合が手配した旅館に行こう。」と説得をうけ、自動車により松本旅館に連行され、翌一五日午前四時ころまで同旅館に軟禁せられ、自動車で地本事務所に連行のうえ同午前五時ころ解放せられた。

そのため、同人らは四時間一〇分欠務し、同人らの乗務すべき第九六二貨物列車は大甕、新小岩間の運転を休止するのやむなきに至つた。

(7) 第三六八貨物列車関係

同月一五日第三六八貨物列車に乗務すべき大宮機関区所属の機関士保栖清三郎、機関助士池田政二の両名は、同月一四日第三六七貨物列車の乗務を終了し、午後四時一〇分ころ水戸機関区運転当直室において佐藤延忠、黒田秀雄両助役の点呼を受け終つた後、同助役等から宿泊所へ行つてもらうから事務室で待つているよう言われ、同区事務室において待つていたところ、同三〇分ころ同機関区に集合していた前記本文記載のピケ隊員のうち原告荘司の指揮する約一六名のピケ隊員が両名の手をとつて両名を保護していた公安職員からひき離し、同人らを包囲して両腕をとらえ背中を押して乗務員詰所に連行し、その後右両名は地本事務所、旅館等を転々として連行されたうえ翌一五日午前五時三〇分ころ解放せられた。

そのため同人らは六時間一三分欠務し、やむなく水戸機関区長石田宏は同人らの乗務すべき第三六八貨物列車には大宮機関区所属の機関士小勝武雄、機関助士石井貞夫を代務せしめるに至つた。

(8) 第二一一旅客列車関係

同月一五日第二一一旅客列車に乗務すべき平機関区所属の機関士橘栄一郎、機関助士草野清の乗名は、同月一四日第二〇二急行旅客列車に乗務し、水戸駅に到着後、同日午後六時ころ水戸機関区運転当直室において佐藤延忠、黒田秀雄両助役の点呼を受けた後同室を出たところ、同室前の廊下にいた前記本文記載のピケ隊員のうち約五名に「地本へ行こう。」と説得を受け、香取屋旅館に連行され、翌一五日午前一時ころまで軟禁せられた。

そのため、同人らは四時間二一分欠務し、やむなく水戸機関区長石田宏は同人らの乗務すべき第二一一旅客列車には平機関区所属の指導機関士竹内丈夫を機関士とし、原ノ町機関区所属の指導機関士遠藤隆を機関助士として代務せしめるに至つた。

(9) 第二八一貨物列車関係

同月一五日第二八一貨物列車に乗務すべき平機関区所属の機関士馬上透は、同月一四日第二七四貨物列車の乗務を終了し、午後六時四五分ころ水戸機関区運転当直室において佐藤延忠、黒田秀雄両助役の点呼を受けた後同室から廊下に出たところ、同機関区に集合していた前記本文記載のピケ隊員のうち約五名から組合地方本部で休養するよう説得を受け、地本事務所に連行され、翌一五日午前四時一〇分ころまで軟禁せられた。

そのため、同人は四時間四九分欠務し、同人が乗務すべき第二八一貨物列車は友部・平間の運転を休止するのやむなきに至つた。

(10) 第六四一旅客列車関係

同月一五日第六四一旅客列車に乗務すべき水戸機関区所属の機関士河和田力は、同一四日午後八時ころ自宅より同機関区に出勤し、同区構内自転車置場に自転車を置きに赴いた際、同機関区に集合していた前記本文記載のピケ隊員のうち約二〇名にとり囲まれ、うち約六名に組合に行くよう説得せられ、自動車に乗せられ松本旅館へ連行のうえ翌一五日午前四時ころまで軟禁せられた。

そのため同人は二時間四分欠務し、同人の乗務すべき第六四一旅客列車は水戸駅を一時間二三分遅延し出発するのやむなきに至つた。

(11) 予備乗務員関係

平機関区長海野安次郎は三月一五日水戸機関区における一〇割休暇斗争に際し、非常の際に乗務せしめるため平機関区所属の機関士鈴木一郎、同鈴木本人、同吉田昇司、機関助士山野辺光平、同高山勝、同高橋栄磨の六名に対し、同月一四日第四一〇列車に便乗して水戸機関区に赴くよう命令した。同人らは同日同列車に便乗して午後七時二分水戸駅上りホーに到着して下車したところ、同駅に集合していた前記本文記載のピケ隊員のうち約三〇名にとり囲まれたので、同機関区指導助役川又厳水はピケ隊員に対し同人らを解放するよう抗議したが、ピケ隊員はこれを拒否し、同人ら全員を円形にとり囲み「ワッショイ、ワッショイ」とかけ声をかけ、かけ足で地本事務所に連行したうえ、機関助士高山勝は、水府ホテルに連行せられ、翌一五日午前四時三〇分ころまで、機関士鈴木一郎外四名は香取屋旅館に連行せられ、翌一五日午前四時過ぎころまで、それぞれ軟禁せられた。

そのため同人らは一〇時間一八分欠務するに至つた。

(12) 仕業ダイヤ(入換第六)乗務員関係

同月一五日仕業ダイヤ(入換第六)に乗務すべき水戸機関区所属の機関士吉田清は、自宅(福島県原ノ町居住)から同機関区に出勤するため同月一四日第二四〇二準急旅客列車に乗り、午後八時二〇分ころ水戸駅上りホームに到着し、同列車より下車して同ホーム上の燃料掛詰所附近に至つた際、水戸駅に集合していた前記本文記載のピケ隊員のうち約五名に「組合に協力してもらいたい。」との説得を受け、地本事務所に連行せられ、さらに市内松本旅館に連行のうえ翌一五日午前四時ころまで軟禁せられた。

そのため同人は三時間二〇分欠務し、やむなく水戸機関区長石田宏は同人の乗務すべき仕業ダイヤ(入換第六)には同機関区所属の岡崎正作機関士を代務せしめるに至つた。

(13) 第四七荷物列車関係

同月一五日第四七荷物列車に乗務すべき平機関市所属の機関士新妻延喜、機関助士遠藤重一の両名は、同月一四日第四四二旅客列車の乗務終了後午後八時三〇分ころ水戸機関区運転当直室において佐藤延忠、黒田秀雄両助役の点呼を受けた後、休養のため水戸車掌区内仮休養室に赴こうとして同機関区玄関を出たところ、同機関区に集合していた前記本文記載のピケ隊員のうち約五名に腕をとられ、組合側の宿舎に行くよう説得を受け、同機関区横の浴場附近で自動車に乗せられ、香取屋旅館に連行のうえ翌一五日午前四時ころまで同旅館に軟禁せられた。

そのため、同人らは四時間二二分欠務し、やむなく水戸機関区長石田宏は、同人等の乗務すべき第四七荷物列車には平機関区所属の指導機関士倉島一郎および機関助士志賀武男の両名を代務せしめるに至つた。

(14) 第四八荷物列車関係

同月一五日第四八荷物列車に乗務すべき尾久機関区所属の機関士新妻勇、機関助士坂下保の両名は第四三五旅客列車に乗務し同月一四日午後八時二一分ころ水戸駅下りホームに到着したところ、同駅に集合していた前記本文記載のピケ隊員のうち五・六名は、同人らに付添つて水戸機関区に赴き、右乗務員らが同機関区運転当直室において佐藤延忠、黒田秀雄両助役の点呼を受けた後、同人らは、右ピケ隊員らにいずれかへ連行せられ、翌一五日午前五時三〇分ころ同機関区に出務した。

そのため同人らは五時間四二分欠務し、水戸機関区長石田宏はやむなく同人らの乗務すべき第四八荷物列車には尾久機関区所属の機関士神原安三、機関助士鈴木一雄の両名を代務せしめるに至つた。

(15) 第二八四貨物列車関係

同月一五日第二八四貨物列車に乗務すべき田端機関区所属の機関士奈良嘉一郎、機関助士鈴木潔、機関助士見習田口隆男の三名は、同月一四日第九七九貨物列車の乗務終了後水戸機関区運転当直室において、佐藤延忠、黒田秀雄両助役の点呼を受けた後、同日午後八時五〇分ころ同室出口において同機関区に集合していた前記本文記載のピケ隊員のうち五・六名に地本事務所に連行せられ、翌一五日午前五時三〇分ころ同機関区に出務した。

そのため同人らは七時間一二分欠務するに至つた。

(16) 第二二一〇旅客列車関係

同月一五日第二二一〇旅客列車に乗務すべき尾久機関区所属の機関士高橋松太郎、機関助士金井文夫の両名は、同月一四日第四三九旅客列車の乗務を終了し、水戸機関区運転当直室において佐藤延忠、黒田秀雄両助役の点呼を受け終つたところ、組合役員に同室前の廊下に誘導せられ、同機関区に集合していた前記本文記載のピケ隊員のうち約五名にとり囲まれていずれかへ連行せられ、翌一五日午前五時三〇分ころ同機関区に出務した。

そのため同人らは四間時九分欠務し、やむなく水戸機関区長石田宏は、同人らの乗務すべき第二二一〇旅客列車には尾久機関区所属の指導機関士米桝達雄を機関士とし同矢部登喜男を機関助士として代務せしめるに至つた。

(17) 第一二六四貨物列車関係

同月一五日第一二六四貨物列車に乗務すべき田端機関区所属の機関士半田保二、機関助士伊藤由孝、機関助士見習小沢繁夫の三名は、同月一四日第一二八九貨物列車の乗務終了後水戸機関区運転当直室において佐藤延忠、黒田秀雄両助役の点呼を受けた後、同日午後九時一七分ころ同室前廊下に出たところ、同機関区に集合していた前記本文記載のピケ隊員のうち約五名に地本事務所に連行せられ、翌一五日午前五時三〇分ころ解放せられた。

そのため同人らは六時間五分欠務し、同人らの乗務すべき第一二六四貨物列車は勝田・田端間の運転を休止するに至つた。

(18) 第七六二貨物列車関係

同月一五日第七六二貨物列車に乗務すべき小山機関区所属の機関士大出俊一、機関助士木村雄平の両名は、同月一四日第七六九貨物列車の乗務を終了して水戸機関区運転当直室において佐藤延忠、黒田秀雄両助役の点呼を受け、同日午後九時四三分ころこれを終つて同室前廊下に出たところ、同機関区に集合していた前記本文記載のピケ隊員のうち約五名に組合の指示によつて行動するよう説得せられたが、同人らが拒否したところ、右ピケ隊員は同人らをとり囲んでいずれかへ連行し、翌一五日午前五時ころ解放した。

そのため同人らは五時間二分欠務し、やむなく水戸機関区長石田宏は同人らの乗務すべき第七六二貨物列車には小山機関区所属の機関士清水実、機関助士仁平茂夫を代務せしめるに至つた。

(19) 第五〇三旅客列車関係

同月一五日第五〇三旅客列車に乗務すべき平機関区所属の機関士吉田政男は同月一四日第六四八旅客列車の乗務終了後水戸機関区運転当直室において佐藤延忠、黒田秀雄両助役の点呼を受けた後、午後九時三〇分ころ同室から乗務員詰所に行こうとして同室前廊下に出たところ、同機関区に集合していた前記本文記載のピケ隊員のうち約五名に組合側の宿舎に行つてもらいたいとの説得を受け、水府ホテルへ連行され、翌一五日午前四時三〇分ころまで軟禁された。

そのため同人は一時間五分欠務するに至つた。

(20) 第三九三貨物列車関係

同月一五日第三九三貨物列車に乗務すべき水郡線管理所所属の機関士小口明、機関助士深谷広の両名は、同月一四日第三九四貨物列車の乗務を終了し、水戸機関区運転当直室において佐藤延忠、黒田秀雄両助役の点呼を受けた後、午後一〇時五五分ころ同機関区に集合していた前記本文記載のピケ隊員のうち約三〇名が同人らを連行しようとしたが、同人らが同行を拒否したところ、同人らは右ピケ隊員に押すようにして自動車に乗せられ、水府ホテルに連行のうえ同ホテルに翌一五日午前五時二五分ころまで軟禁せられた。

そのため、同人らは二時間二四分欠務し、やむなく水戸機関区長石田宏は同人らの乗務すべき第三九三貨物列車には水郡線管理所所属の機関士三次金次郎、機関助士荻谷義雄を代務せしめるに至つた。

(21) 第九六五貨物列車関係

同月一五日第九六五貨物列車に乗務すべき平機関区所属の機関助士長谷川直恵は、同月一四日第二八〇貨物列車に乗務し、水戸駅に到着し、午後一〇時一〇分ころ水戸機関区運転当直室において佐藤延忠、黒田秀雄両助役の点呼を受けた後、他区乗務員詰所で休養するため乗務員詰所を出たところ、同詰所前廊下において同機関区に集合していた前記本文記載のピケ隊員のうち約五名に組合の指令に従うよう説得を受け、地本事務所に連行せられ、翌一五日午前四時一〇分ころまで同所に軟禁せられた。

そのため同人は四時間八分欠務し、やむなく水戸機関区長石田宏は同人の乗務すべき第九六五貨物列車には平機関区所属の機関助士佐々木勇を代務せしめるに至つた。

(22) 第三七一貨物列車関係

同月一五日第三七一貨物列車に乗務すべき平機関区所属の機関士志賀誠、機関助士鈴木哲雄の両名は、同月一四日第二五四貨物列車に乗務して水戸駅に到着し、水戸機関区運転当直室において佐藤延忠、黒田秀雄両助役の点呼を受けた後、午後一一時三〇分ころ同機関区乗務員詰所を出たところ、同詰所前廊下にいた前記本文記載のピケ隊員のうち約五名につかまえられ、機関区浴場附近で自動車に乗せられて水府ホテルへ連行のうえ、翌一五日午前四時一〇分ころまで軟禁せられた。

そのため、同人らは四時間四五分欠務し、同人らの乗務すべき第三七一貨物列車は水戸・長町間の運転を休止するのやむなきに至つた。

(23) 第二〇九急行旅客列車関係

同月一五日第二〇九急行旅客列車に乗務すべき平機関区所属の機関士鈴木二郎、機関助士柴野一己の両名は、同月一四日第二三〇旅客列車に乗務して水戸に到着し、水戸車掌区内仮休養室において休養の後、同日午後一一時五〇分ころ水戸機関区に出務するため同機関区乗務員詰所入口に至つたところ、同機関区に集合していた前記本文記載のピケ隊員のうち約二〇名に包囲され、地本事務所に連行のうえ翌一五日午前四時ころまで同所に軟禁せられた。

そのため、同人らは三時間三六分欠務し、やむなく水戸機関区石田宏は同人らの乗務すべき第二〇九急行旅客列車には平機関区所属の機関士木幡敏蔵、機関助士草野良男の両名を代務せしめるに至つた。

(24) 第七四貨物列車の重連機関車関係

同月一五日第七四貨物列車の重連機関車に乗務すべき田端機関区所属の機関士神林富雄、機関助士松本要四郎、機関助士見習福元宣晃の三名は、同月一四日第一二七七貨物列車の乗務を終了し、水戸機関区運転当直室において佐藤延忠、黒田秀雄両助役の点呼を受けた後、午後一一時四二分ころ同室出口において、同機関区に集合していた前記本文記載のピケ隊員のうち約五名に地本事務所に連行せられ、翌一五日午前五時三〇分ころ同機関区に出務した。

そのため同人らは一時間五分欠務するに至つた。

(25) 第三六一貨物列車関係

同月一五日第三六一貨物列車に乗務すべき平機関区所属機関助士吉田茂は、同月一四日第七七四貨物列車に乗務し水戸駅に到着し、午後一一時四五分ころ水戸機関区運転当直室において佐藤延忠、黒田秀雄両助役の点呼を受けた後、同室を出たところ同室前廊下にいた前記本文記載のピケ隊員のうち約五名に包囲せられ、自動車で水府ホテルに連行のうえ、翌一五日午前四時一〇分ころまで軟禁せられた。

そのため同人は三時間四一分欠務するに至つた。

(26) 第二七九貨物列車関係

同月一五日第二七九貨物列車に乗務すべき平機関区所属の機関士伊東常治、機関助士安斉浩の両名は、同月一四日第二八二貨物列車に乗務して水戸駅に到着し、午後一一時三〇分ころ水戸機関区運転当直室において佐藤延忠、黒田秀雄両助役の点呼を受けて同室を出たところ、同室前廊下にいた前記本文記載のピケ隊員のうち約一〇名にとり囲まれ、組合側の宿舎に行くよう説得を受け香取屋旅館へ連行せられ、翌一五日午前四時ころまで軟禁せられた。

そのため、同人らは五時間一一分欠務し、同人らの乗務すべき第二七九貨物列車は羽鳥・平間の運転を休止するに至つた。

(27) 第四二四旅客列車関係

同月一五日第四二四旅客列車に乗務すべき尾久機関区所属の機関助士池田佳平、同三沢久雄の両名は同日第四四一旅客列車の乗務を終了し、午前〇時五分ころ水戸機関区運転当直室において佐藤延忠、黒田秀雄両助役の点呼を受け終つたところ、同人らは同機関区に集合していた前記本文記載のピケ隊員のうち約五〇名にとり囲まれていずれかへ連行せられ、午前五時三〇分ころ同機関区に出務した。

そのため、同人らは二時間五四分欠務し、同人らの乗務すべき第四二四旅客列車は一時間五分遅延して水戸駅を出発するのやむなきに至つた。

(28) 第九六四貨物列車関係

同月一五日第九六四貨物列車に乗務すべき田端機関区所属の機関士今林護男、機関助士飛田昇、同石井良徳の三名は、第二六一貨物列車の乗務を終了し、水戸機関区運転当直室において佐藤延忠、黒田秀雄両助役の点呼を受けた後、同日午前〇時五分ころ同室を出たところ、同室前廊下において同機関区に集合していた前記本文記載のピケ隊員のうち約五〇名にとり囲まれ、地本事務所に連行せられ、同日午前五時三〇分ころ同機関区に出務した。

そのため同人らは二時間一〇分欠務し、同人らの兼務すべき第九六四貨物列車は高荻・新小岩間の運転を休止するのやむなきに至つた。

(29) 第一二八三貨物列車関係

同月一五日第一二八三貨物列車に乗務すべき平機関区所属の機関士薄葉貞一、機関助士山口千代一の両名は、第三六八貨物列車に乗務し水戸駅に到着し、同日午前〇時二二分ころ水戸機関区運転当直室において佐藤延忠、黒田秀雄両助役の点呼を受けた後、同室前廊下において同機関区に集合していた前記本文記載のピケ隊員のうち約五名にとり囲まれ、組合側の宿舎に行くよう説得せられ、自動車に乗せられて水府ホテルへ連行のうえ、翌一五日午前四時一〇分ころまで軟禁せられた。

そのため、同人らは四時間二〇分欠務し、同人らの乗務すべき第一二八三貨物列車は高浜・平間の運転を休止するのやむなきに至つた。

(30) 第九二六三貨物列車関係

同月一五日第九二六三貨物列車に乗務すべき水戸機関区所属の機関士飛田正は、同日午前〇時三〇分ころ自宅より同機関区に出勤し、同区構内自転車置場の附近において同機関区に集合していた前記本文記載のピケ隊員のうち約六名に地本事務所に行くよう説得せられ、同所に連行され、同四時ころまで軟禁せられた。

また、機関助士篠原正男は自宅より同機関区に出勤のため同月一四日午後八時五〇分ころ水戸駅構内元水戸資材事務所建物附近に至つた際、同機関区に集合していた前記本文記載のピケ隊員のうち約一〇名に地本事務所に行くよう説得せられ、同所に連行のうえ、さらに松本旅館に連行せられ、翌一五日午前四時ころまで軟禁せられた。

そのため右両名は四時間五九分欠務し、同人らの乗務すべき第九二六三貨物列車は内原・長町間の運転を休止するのやむなきに至つた。

(31) 第三四二二旅客列車関係

同月一五日第三四二二旅客列車に乗務すべき尾久機関区所属の機関士黒須俊夫、機関助士飯塚雅治の両名は、同月一四日第三四四七旅客列車に乗務して水戸駅に到着後、一五日午前〇時四〇分ころ同列車のけん引機関車を運転して水戸機関区構内西誘導掛詰所附近に至り停車した際、同機関区に集合していた前記本文記載のピケ隊員のうち約二五名が同機関車を待ち受けており、そのうち約四名が同機関車に乗りこみ、同人らに下車するよう約二〇分にわたり説得したので、同人らは降車し、乗務終了点呼を受けることなくいずれかへ連行せられ、翌一五日午前五時三〇分ころ同機関区に出務した。

そのため同人らは三時間一八分欠務し、同人らの乗務すべき第三四二二旅客列車は二時間三一分遅延し、水戸駅を出発するに至つた。

(32) 第七二貨物列車関係

同月一五日第七二貨物列車に乗務すべき大官機関区所属の機関士天沼修一、機関助士藤沢貞夫、同吉田操、機関助士見習高木好夫の四名は、同月一四日第三六九貨物列車に乗務し、水戸駅に到着し、水戸機関区運転当直室において佐藤延忠、黒田秀雄両助役の点呼を受けた後、同月一五日午前〇時四〇分ころ同機関区二階の休養室に赴くため同室前の廊下に出たところ、同機関区に集合していた前記本文記載のピケ隊員のうち約五〇名にとり囲まれ、両腕をとつて室外に連れ出され、自動車で松本旅館に連行のうえ同日午前四時一五分ころまで軟禁せられた。

そのため同人らは二時間一九分欠務するに至つた。

(33) 第四二六旅客列車の便乗乗務員関係

同月一五日第九六五貨物列車に乗務して水戸駅に到着し、同日第四二六旅客列車に便乗して田端機関区に帰着すべき同士萩原藤次郎の両名は、第九六五貨物列車の乗務を終了し、水戸機関区運転当直室において佐藤延忠、黒田秀雄両助役の点呼を受けた後、同日午前一時ころ同機関区に集合していた前記本文記載のピケ隊員のうち約五名にいずれかに連行せられ、同日午前五時三〇分ころ同機関区に出務した。

そのため同人らは五五分欠務するに至つた。

(34) 第二七〇貨物列車関係

同月一五日第二七〇貨物列車に乗務すべき田端機関区所属の機関士田中清一、機関助士山辺進、同堀内勝治の三名は、第六三貨物列車の乗務を終了し、水戸機関区運転当直室において佐藤延忠、黒田秀雄両助役の点呼を受けた後、同日午前一時一〇分ころ同室を出たところ、同室前廊下において同機関区に集合していた前記本文記載のピケ隊員のうち約五〇名にとり囲まれ、地本事務所に連行せられ、同日午前五時三〇分ころ同機関区に出務した。

そのため同人らは二時間一分欠務するに至つた。

(35) 第九九六一貨物列車関係

同月一五日第九九六一貨物列車に乗務すべき水戸機関区所属の機関士金沢政次は自宅より同機関区に出勤のため同日午前一時二五分ころ水戸駅構内元水戸資材事務所建物附近に至つた際、同機関区に集合していた前記本文記載のピケ隊員のうち約一〇名に地本事務所に行くよう説得せられ、同所に連行のうえ同五時ころまで軟禁せられた。

そのため同人は四時間一八分欠務し同人の乗務すべき第九九六一貨物列車は岩間・平間の運転を休止するのやむなきに至つた。

2水戸駅における発車妨害

(1) 第二二〇九急行旅客列車

第二二〇九急行旅客列車は、水戸駅以北の運転を担当する機関士鈴木義男および機関助士舟生清吾を乗せ、九分遅延して、三月一五日午前〇時九分に水戸駅下りホームに到着した。同ホーム附近には、前記本文記載のピケ隊員のうち約一五〇名が下りホーム上に、約五〇名が下り本線と中線との間において右列車の到着を待ち受けていた。右列車が到着すると、原告惣田および同荘司らが機関車の運転室に乗り込み、前記二名の乗務員に対し、降車するよう説得して右列車の発車を妨害した。同人らは説得に応じることなく、〇時二〇分に発車したが、右説得行為により、列車はさらに五分増延するに至つた。

(2) 第二〇九急行旅客列車関係

第二〇九急行旅客列車は、水戸駅以北の運転を担当する平機関区所属の機関士木幡敏蔵および機関助士草野良男を乗せ、三〇分遅延して、三月一五日午前一時一七分に水戸駅下りホームに到着した。同ホーム附近には、前記本文記載のピケ隊員のうち約一五名が下りホーム上に、約五〇名が下り本線と中線との間において右列車の到着を待ち受けていた。右列車が到着すると、原告惣田および同荘司らが機関車の運転室に乗り込み、前記二名の乗務員に対し、降車するよう説得し、約五分後には両名を線路わきに降車させてしまつた。そして約一〇名のピケ隊員が同人らの両手を組んで地本事務所を経て水府ホテルに連行し、同日午前五時まで軟禁した。その直後原告惣田は、機関車運転室からマイクをもつて、ホーム上のピケ隊員に対し、「平の乗務員は降ろした。尾久の乗務員は保安要員として残し、当分の間列車は停める。」という趣旨の演説をした。

このような状況のもとで、同列車の乗客約二〇名が列車の遅延に激怒して、同駅ホームに降車して水戸駅長笹谷和三郎らに抗議するという事態が発生した。

そうしたことから同列車の発車は、さらに四六分遅延し、同駅を午前三時二六分に発車した。

そのため、機関士木幡敏蔵および機関助士草野良男は二時間三分欠務し、第二〇九急行旅客列車が二時間九分にわたり水戸駅下りホームに停車していため、同列車に続行する第二一一旅客列車は同駅場内信号機外に二時間八分、第三七一貨物列車は赤塚・水戸駅間に二時間五分、第四七荷物列車は赤塚駅に一時間三〇分、第七七一貨物列車も同駅に一時間四八分、第七一貨物列車は内原駅に一時間三二分停車し、遅延するに至つた。

(3) 第二五〇貨物列車関係

三月一五日第二五〇貨物列車をけん引すべきD五一五〇号機関車に、田端機関区所属の機関士高野茂、機関助士牧村精一、同早川一重の三名が乗務し、四五分遅延して水戸機関区を出区し、同日午前一時二五分ころ西部信号所附近で一旦停車した。すると、同機関区に集合していた前記本文記載のピケ隊員のうち約五〇名が同機関車左側に集り、右乗務員に対し降りてくれと連呼し、そのうち一名が右機関車の運転室に乗り込み、乗務員に降車するよう説得したが、同人らはこれを拒否した。

そのため同機関車は、さらに約三分遅延して、午前一時二八分ころ水戸駅構内上り一番線に停車中の右列車に連結された。すると機関車を追つて移動してきた前記ピケ隊員のうち三名がまたもや機関車に乗り込み、右乗務員に降車するよう説得した。同人らがこれを拒否したのでなおも右ピケ隊員は説得を続け、残余のピケ隊員は機関車の両側に集り、これに接近して右列車の発車を妨害した。一時四〇分ころには、右ピケ隊員のうち約一五名が機関車の前方三か所でたき火を囲んで集り、上り一番線内に立入つて、右列車の発車を妨害し続けた。

水戸駅長笹谷和三郎は、同日午前二時二〇分ころマイクをもつて二回にわたりピケ隊員に解散を命じたが、ピケ隊員は、そのころ約一五〇名に増加して解散しない。同駅長は、右列車が青森発東京行の鮮魚列車でこれ以上遅延することは許されない情勢にあつたため、鉄道公安室長松本宇作外数十名の公安職員の出動方を要請し、公安職員が機関車附近のピケ隊員を排除し、機関車上で説得中のピケ隊員を降車させた。

そのため、右列車は、さらに一時間四分遅延し、同日午前二時四二分に水戸駅を出発した。

3職務遂行妨害等

水戸鉄道管理局厚生課長補佐外岡元固は、同局の職員をもつて組織する警備班員約一〇名を指揮して、乗務員を確保するため、説得ピケ隊員が当直助役室に侵入するのを防止しようとして、三月一四日午前六時二〇分ころ水戸機関区運転当直室入口にピケを張つて警備していた。原告荘司は、五・六名の機動隊員を指揮して外岡らのピケを破つて当直室に押し入ろうとしてもみ合いとなつた。侵入が成功しないので、原告荘司は、外岡を指して、「こいつをごぼう抜きにしろ。」と叫び、指揮下の隊員に号令するとともに警備員の中に飛び込んで来た。こうして、原告荘司は、機動隊員らとともに外岡の腕や足をとつて警備ラインより引抜き、手足を引つぱつて同人を乗務員詰所に連行しようとしたが、同人が抵抗したので、原告荘司は、同人の制帽をむしりとつてこれを床上にたたきつけたりして、同人を乗務員詰所に強制連行し、同人の警備の職務遂行を妨害した。

機関士安斎善二郎および機関助士星野茂が三月一四日午前八時五〇分ころ、第四三四列車の乗務を終了し、水戸機関区当直助役室において、佐藤延忠および黒田秀雄両助役の点呼を受けた後、同助役らと話し合つていた。その際原告荘司は、ピケ隊員約十数名を指揮して同室に無断侵入し、右機関士および機関助士の手を引つぱつて連行しようとしたので、被告の職員がこれを阻止しようとしてもみ合いとなり、その際右ピケ隊員は、そこにあつた電熱器および窓ガラス二枚を破損した。

(四)  浜松地区の状況(原告中江、同加藤、同赤堀および同竹森関係)

原告加藤が昭和三五年七月一〇日および一一日に静岡市において開催された原告組合静岡地本の第一〇回定期大会において、同地本の執行委員長に選出され、同年八月二〇日右役職に就任し、昭和三六年二月一日地本の大会または委員会の決議の範囲内で斗争手段を決定する権限を有する同地本斗争委員会の斗争委員長に就任したこと、原告赤堀が昭和三五年八月一〇日原告組合静岡地本浜松支部執行委員長に就任したこと、原告竹森が昭和三五年七月一七日開催された原告組合北陸地本第一〇回定期大会において、同地本執行委員長に選出され、同日右役職に就任したことは、当事者間に争いない。

〈証拠〉を総合すれば、次の事実が認められる〈証拠判断省略〉。

原告組合が三月六日東京都で全国組織部長会議を開催し、同会議において、三月一五日午前〇時から午前九時まで乗務員の一〇割休暇斗争の実力行使を実施することおよび斗争拠点の一として浜松支部を加えること等を決定したことは、前認定のとおりである。原告加藤は、静岡地本から右会議に出席し、右決定に参画した。原告組合の中央斗争委員会が右決定に基づき、三月七日静岡地本に対し、前記のような斗争指令第六号を発したことは、前認定のとおりである。

原告加藤は、右指令を受け、静岡地本斗争委員長として、三月七日同地本の拡大斗争委員会を開き、浜松支部からは原告赤堀も出席のうえ、左記事項を協議決定するとともに、これを下部の各支部に指令した。すなわち、前記指令第六号に基づき、浜松支部を拠点として乗務員の一〇割休暇斗争を実施することおよび同支部所属の乗務員全員に休暇届を提出させ、かつ乗務員の代替要員となる者の代替措置を阻止すること等を決定した。そして原告加藤は、同月一〇月午後六時に新聞記者会見を行ない(記者会見の事実は、当事者間に争いない。)「三月一五日午前〇時から午前九時まで浜松を拠点として半日ストを行なう。」旨発表した。またそのころ同地本は、国労静岡地本および遠州地方労働組合会議に右斗争の支援を要請した。

原告赤堀は、右指令を受け、浜松支部執行委員長として、支部拡大斗争委員会を開催し、右指令に基づく斗争実施を確認するとともに、指令を所属組合員に徹底させて斗争の実効をあらしめることを協議決定した。そして原告赤堀らは、同日ころから四日間にわたつて連日職場集会を開き、組合員に対し斗争参加を呼びかけるとともに、一二日ころからは、オルグとなつて個別に組合員を説得激励した。

一方、原告中江は、派遣中央斗争委員として、三月八日浜松に赴き、同日および翌九日戦術委員会を開き、原告中江らが戦術委員となり、必要に応じ、原告加藤および原告赤堀も戦術委員となることを決定した。

また原告組合は、三月七日関係地本に対し、三月一五日浜松支部外九箇所を拠点として一〇割休暇斗争を実施するから、関係地本は動員をもつてこれを支援すべき旨を指令した。北陸地本執行委員長である原告竹森は、そのころ同地本執行委員会を開き、浜松支部の斗争の支援を行なうことおよびその支援のため役員と組合員を浜松に派遣することを決議した。原告竹森は、その決議に基づき、同月一二日ころ役員および所属組合員約九〇名とともに浜松地区に赴いた。

静岡鉄道管理局長村松敏雄は、三月一一日地本委員長である原告加藤にあて、前記斗争は違法であるから中止されたい旨の警告書を交付した。また浜松機関区長市村清二は、三月一二日午前一〇時四五分原告赤堀に対し、書面により斗争を中止するよう申し入れたが、同原告はこれを拒否した。

原告組合は、同月一四日現地において戦術会議を開催し、原告中江、同加藤、同赤堀および同竹森も出席のうえ本件斗争の具体的実施方法等につき次のとおり協議決定した。原告中江が総指揮となり、原告加藤および同赤堀は本部付として指揮班を構成すること、原告竹森は北陸地本から動員された組合員からなる行動隊の指揮者となること、具体的戦術としては斗争時間帯にある乗務員を説得して乗務を阻止すること等を決定したのである。

原告赤堀らが、所属組合員に対し、斗争への参加を呼びかけ、休暇申請書の提出を促したところ、所属組合員である乗務員全員(病欠等の数名を除く。)から三月一五日全一日の休暇申請書が提出された。原告赤堀は、これをとりまとめ、原告中江に交付し、同原告らは、三月一四日浜松機関区長市村清二に対し、右申請書を一括して提出した。同区長は、これに対し、業務上の都合により許可できない旨回答した。なお当時、同機関区所属の乗務員約四九〇名のうち原告組合所属組合員は、約四〇〇名である。

原告竹森は、三月一四日午前二時五二分ころ、浜松機関区附近に集合したピケ隊員のうち、北陸地本からの動員者を主力とする約一〇〇名を指揮して、浜松駅構内下りホーム東端方面から同ホームに四列縦隊で侵入した。その際同原告は、同ホーム備付のベンチにのぼり、右ピケ隊員らに対し、音頭をとつて運賃値上げ反対と高唱させた。同原告は、同日午前一一時五分ころピケ隊員約七〇名を指揮し、同駅構内上り一番線に侵入し、同駅助役朝比奈貫一の退去通告に応ぜず、同日午後〇時三五分同駅に到着した第一二二旅客列車の乗客および同日午後一時二分同駅に到着した第三八旅客列車の乗客に向つて携帯マイクで運賃値上げ反対等の演説をした。さらに同原告は、同日午後六時ころピケ隊員八名を指揮して浜松機関区に侵入し、同区助役島田博の制止もきかず、同区機関車庫山側に、「乗務粁制限旅客一九〇K、貨物一六〇Kまでダイヤ作成基準を獲得」、「国鉄運賃各種公共料金値上反対」とそれぞれ記載した八〇センチ、横九メートルの横幕二枚と「運賃値上反対の為動力車休暇斗争に突入」の一八文字を横八〇センチ、縦一メートルの紙片に一字づつ記入したものを横にならべてはつたりした。

この間、浜松地本所属組合員は、ピケ要員として浜松機関区講習室および旧丙修職場附近に参集し、三月一四日午前〇時ころには約二〇〇名に達した。その後原告組合の名古屋、北陸、長野の各地本および国労ならびに部外団体所属の組合員がぞくぞくと浜松に到着し、同日午後一〇時四五分ころには、約二、〇〇〇名が浜松機関区の扇形車庫附近に集結するに至つた。

右ピケ要員のうち約四〇〇名は、三月一四日午後一一時一五分ころ、静岡鉄道管理局において確保した乗務員六九名を宿泊させていた浜松市老塚町の松島旅館を包囲してピケをはり、右乗務員が出務のため旅館を出ることや、被告側が右乗務員を誘導するため旅館に入ることを妨害していた。原告赤堀は、右ピケ隊に加わり、指導者的な活動をしていた。このため、静岡鉄道管理局は、警察隊の出動を要請し、三月一五日午前〇時三四分ころ右ピケ隊員の排除につとめたが、午前一時一五分ころ乗務員二名を出務のため連れ出したのみで、他の六七名は旅館を出ることができず、結局午前三時二〇分ころまで出入を妨害された。

右原告らの指揮するピケ隊は、乗務員の連行または浜松駅における列車の発車妨害をしたため、乗務員の欠務または列車の遅延が続出した。その詳細は、次のとおりである。

1浜松機関区関係乗務員の連行

(1) 第五四貨物列車関係

三月一五日第五四貨物列車に乗務すべき浜松機関区所属の電気機関助士中村克彦は、同月一四日午前一時三六分ころ第三七一貨物列車の乗務を終え浜松駅下り二番線に下車した際、原告中江らが左右から同人の腕をとり、原告赤堀が同人のカバンを持ち、同駅下りホーム中央附近に連行し、同ホームのベンチに腰かけていたところ、同二時五二分ころ同組合所属の組合員からなるピケ隊員約一〇〇名が下りホームの東端方面から同ホームに侵入し、同三時一三分ころ右ピケ隊員で右電気機関助士をとり囲み、原告組合の手配した旅館へ連行し、翌一五日午前四時三〇分ころまで右旅館に収容した。

そのため、同人は三時間一〇分欠務するに至つた。

(2) 第一一六六貨物列車関係

同月一五日第一一六六貨物列車に乗務すべき浜松機関区所属の電気機関士鈴木太郎八が、第三八一貨物列車に乗務し、同月一四日午前四時五四分ころ浜松駅下り三番線に到着した際、同区助役井口久男は、右列車の機関車に乗車して、鈴木電気機関士および同助士伊藤侃治に対し、同月一五日第五四一仕業(出勤時刻午前四時一五分、行先沼津)に乗務することを命ずる旨の業務命令書を手交しようとしたところ、原告中江の指揮する同組合所属の組合員からなるピケ隊員約一五名も同機関車に乗りこみ、原告中江は、同助役を後からはがいじめにしてその交付を妨害し、さらに同助役が右命令を口頭で通告しようとしたところ、音頭をとつて労働歌を高唱し、その通告を不能ならしめた。そして同機関車はピケ隊員らが乗りこんだまま同機関区に至り、機待四番線に留置された際、ピケ隊員らは、鈴木電気機関士を機関車から降ろし、帰着点呼をうけさせることなく、原告組合手配の旅館へ連行し、翌一五日午前四時三〇分ころまで収容した。

そのため同電気機関士は、一時間五分欠務するに至つた。

(3) 第三六九貨物列車関係

同月一五日第三六九貨物列車に乗務すべき稲沢第二機関区所属の電気機関士西原好男および同助士永井恒雄は、同月一四日午後三時四四分ころ、第七七〇貨物列車の乗務を終え、浜松駅上り二番線に下車した際、原告中江らの指揮する同組合所属の組合員からなるピケ隊員約二〇〇名は、右両名をとり囲んで浜松機関区へ同行し、帰着点呼の終了を待ち、両名は、右ピケ隊員らに自動車に乗せられ、原告組合の手配した旅館へ連行され、翌一五日午前四時三〇分ころまで収容された。

そのため右両名は、五時間二〇分欠務し、第三六九貨物列車は四時間三〇分遅発するに至つた。

2浜松駅における発車妨害

(1) 第一五八貨物列車および第三五二貨物列車

原告竹森は、三月一四日午後二時四五分ころ約一五〇名のピケ隊員を指揮して浜松機関区方面から浜松駅構内に侵入し、同二時五〇分ころ同駅構内上り二番線の第五八号のイ転てつ器の西方約三〇メートル附近において、上り三番線にまたがつてスクラムを組んでピケを張り、同駅上り三番線で実施している第三五二貨物列車(急送品市場列車)の解結作業を妨害した。同駅駅長安藤操は同原告らに対し携帯マイクで再三にわたり退去を要求したが、同原告らはこれに応じなかつた。さらに同三時一分に至り、上り二番線に第一五八貨物列車が到着すると、同原告は、右ピケ隊員らとともに同列車の機関車の山側(進行方向の左側)乗降口附近に押しよせ乗務員を連行しようとし、また同列車の機関車の進路にあたる上り二番線および上り三番線に立ち入つて、右列車の進行を妨害した。そこで、同三時一九分ころ同駅助役朝比奈貫一が、同原告らに対し退去を通告したが、同原告らはこれに応ずることなく、同三時二六分ころまでその状態を継続した。さらに右ピケ隊員らが同線を退去後、上り三番線の第三五二貨物列車の入換作業を開始しようとすると、同原告は再び同線路に立り入り、「上り二番線の発車と一緒に入換作業してはいかん。」と叫んで約三分間列車の入換作業を妨害した。

そのため第一五八貨物列車は一〇分、第三五二貨物列車は二七分、それぞれ遅発するのやむなきに至つた外、右両列車の後続の第一六八貨物列車も六分、同じく第三七四貨物列車も三二分それぞれ遅発するに至つた。

(2) 第一三一一旅客列車

原告竹森は三月一五日午前〇時四〇分ころ同駅構内下り中一番線附近からピケ隊員約九〇名を指揮して同駅構内下りホーム上に進出し、同ホーム西端(豊橋寄)から跨線橋附近までの間をスクラムを組んで「ワッショ、ワッショ」と叫びながらジグザグ行進を始めた。そこで、同駅長安藤操は再三再四携帯マイクで構外退去を通告したが、同原告らはこれに応ぜず、同駅備付の手押車を同下り一番線路内に転落せしる等して行進を続け、同一時一分第一三一旅客列車が同下り一番線に到着すると、同駅構内下り中一番線附近に待機していた約六〇名のピケ隊員を合流して同列車の機関車の前頭および両側に殺到した。そして同原告は、機関車海側(進行方向の左側)の機関士乗降用フードステップにのぼり、窓をたたきながら乗務員に降車を説得したが、同乗務員がドアーを鎖錠してこれに応じないので、同原告は機関車の山側(進行方向の右側)前部に出て、携帯マイクで右ピケ隊員に対し、「乗務員が降りて来るまでどくな、どくな。」と号令した。同一時六分ころ同駅駅長安藤操および同助役朝比奈貫一がこもごも「列車が遅れるから線路外に退去するよう」通告したが、同原告は「ウルサイ」「駅長前へ出ろ。」と叫んで、同一時一一分ころまで右ピケ隊員等とともに同列車の出発を妨害した。そして、右列車が同駅運転掛井谷愛吉の出発指示に基づく車掌の出発合図により起動したところ、同原告は、突然機関車前頭約四メートルの線路内に立ち入り、懐中電灯を振り、同列車の機関士に対し携帯マイクで、「あぶない、あぶない、線路に人がいるのがわからんか。」と叫んで動かないので、同列車は約一メートルほど前進して停止するのやむなきに至つた。その後同原告が線路外に退去したので、同列車は同一時一二分発車した。しかし、そのため同列車は六分遅延するに至つた。

(五)  広島地区の状況(原告馬場、同下田および同坂井関係)原告下田が昭和三七年七月二九日原告組合の広島地本第一〇回定期大会において、同地本執行委員長に選出され、同年八月一〇日右役職に就任し、また原告坂井が同年九月六日地本の広島第二支部執行委員長に就任したことは、当事者間に争いない。

〈証拠〉を総合すれば、次の事実が認められる。証人諫早彦二、同隈元寅教および同藤井昇の証言中左記認定に反する部分は措信しない。

原告組合が三月六日東京都で全国組織部長会議を開催し、同会議において、三月一五日午前〇時から午前九時まで乗務員の一〇割休暇斗争の実力行使を実施することおよび斗争拠点の一として広島第二支部を加えること等を決定したことは、前認定のとおりである。原告下田は、広島地本から右会議に出席し、右決定に参画した。原告組合の中央斗争委員会が右決定に基づき、三月七日広島地本に対し前記のような斗争指令第六号を発したことは、前認定のとおりである。

原告馬場は、派遣中央斗争委員として、三月九日広島に赴いた。原告下田は、広島地本委員長として、同日宮島職員会館において同地本代表者会議を開き、原告馬場は派遣中斗として、原告坂井は広島第二支部委員長として右会議に出席した。右会議において、原告馬場は、広島地本に対し、口頭により前記三月一五日の一〇割休暇斗争の実施を指令し、かつ右原告ら三名らは、その斗争の実施方法として、広島第二支部の乗務員全員に当日の休暇申請書を提出させることや代替乗務員の乗務については、抗議してこれを阻止する等の大綱方針を協議決定した。原告坂井は、広島第二支部斗争委員長として、三月一〇日広二支部斗争委員会を開催し、原告馬場および同下田も出席のうえ、右原告三名らは、右斗争実施を確認するとともに、戦術として次のとおり協議決定した。すなわち、組合役員はオルグとなつて組合員たる乗務員を説得して一五日の斗争参加と休暇申請書の提出を求めること、斗争参加を確認した証として、組合員一人一人から捺印を求めること、乗務員を説得して労働会館に収容し、その乗務を阻むこと、広島地本傘下の広二支部以外の各支部、中国地方の公労協、広島県労に支援動員を要請すること等を決定したのである。右決定に基づき、原告坂井ら広二支部幹部は、三月一一日から昼夜を問わず、各組合員に斗争参加を説得して休暇申請書の提出を求め、また斗争当日は乗務を放棄して労働会館に行くことを要請する活動を行なつてきた。広島第二支部は、三月一一日に広二支部臨時乗務員集会を、三月一二日職場集会を開き、いずれも七、八〇名の組合員たる乗務員の出席を得て、原告坂井らは、右乗務員に対し、右斗争指令を伝達してその趣旨を徹底させるとともに、斗争への参加を呼びかけた。原告下田は、地本斗争委員長として、三月一三日地本斗争委員会および戦術委員会を開催し、原告惣田および同坂井も出席のうえ、役員の任務分担、動員者の配置計画、斗争の実施方法等について次のとおり協議決定した。すなわち、斗争の総指揮は原告馬場がとり、原告下田および同坂井はその下で、指揮班を組織すること、一四日までは動員者を上りホーム、下りホーム、広島第二機関区に配置し、乗務員に対する斗争参加への説得活動を行なうこと、一四日二二時以降は、第二機関区正門前、同北口機関室出入口、上りホーム、労働会館、第一機関区に配置して、乗務員の説得活動と乗務阻止をはかること、具体的な実施方法としては、乗務員を説得して労働会館に収容すること、広島第二支部以外の各支部、特に広島第一支部の乗務員に対して代替要員として乗務命令が出されることが予想されるが、これら各支部の乗務員にもオルグ活動を行なつて乗務拒否に協力を求めること等を協議決定したのである。

一方、被告中国支社長斉藤博は、三月一〇日付中国支総第四一三号をもつて、広島地本執行委員長である原告下田に対し、右斗争は、違法の行為であるから良識ある行動をとるようにとの警告を発し、また広島第二機関区長岩本正市は、同区正門附近の掲示板および同区乗務員詰所に、同支社長名の「職員諸君に告ぐ」と題する警告文を掲示し、職員が斗争を実施しないように警告した。しかし、原告馬場、同下田および同坂井らの組合役員ならびに支援団体の組合員等約一、〇〇〇名はピケ隊を編成し、数名ないし約二〇〇名で一団となつて、三月一三日午前八時ころから同機関区附近または乗務員の出勤、退出の途上において、斗争実施日である三月一五日の午前〇時から午前九時までに同機関区へ出務すべき勤務予定の乗務員らが、乗務を終えて同区に帰区する際または同区から帰宅する際、あるいは乗務を終え同区休養室で休養後さらに乗務のため同区事務室に出務する際、前記休暇斗争に参加するよう説得勧誘し、広島市金屋町所在の広島県労働会館に連行し、ここに収容し始めた。こうして原告組合側は、一四日朝までには、四、五〇名の乗務員を労働会館に収容して獲得した。原告坂井は、三月一四日午後六時ころ約一〇〇名の組合員を指揮して、機関区事務所前附近をジクザクデモ行進を行なつて気勢をあげた。

前記のように原告坂井らは組合員たる乗務員を説得して、三月一五日の休暇申請書の提出を促していたのであるが、三月一四日昼ころまでには組合所属乗務員全員の休暇届をとりまとめた。そして、原告坂井は、同日午後七時五〇分ころ、原告馬場らとともに広島第二機関区長室において同区長に対し、三月一五日午前〇時から午前九時まで休暇斗争を実施する旨通告し、所属組合員約二五〇名の休暇願を提出した。同区長は、列車輸送に重大な影響があるとの理由で、右申出を拒否するとともに、斗争の中止とピケ隊員の退去を要請した。

それにもかかわらず、乗務員の連行は、依然として継続されたばかりでなく、原告組合は、三月一四日午後一〇時ころから、第二機関区前広場において、約一、〇〇〇名の動員者を集めて、総決起集会を開き、原告馬場および原告下田らが激励演説を行なつた。この集会が続いて一五日午前〇時となるや、原告馬場および原告下田は、放送車の上にのぼり、斗争宣言を発し、ピケ隊員に対し、これより実力行使により乗務員の獲得に行けと号令を発した。かくして、右ピケ隊員は、三月一五日午前一時五〇分ころからは、約二〇名ないしは約一二〇名が一団となつて、広島駅において、同駅に到着する列車の機関車の入口にピケを張つて機関車乗務員の乗継乗務を妨害し、さらに機関車乗務員等に対し、必要以上に入念な乗継点検を行なわせた。

そのような乗務員の連行および乗継乗務妨害のため、乗務員が多数出務を阻止されて欠務し、また列車の遅延等が続出した。その詳細は、次のとおりである。

1広島第二機関区関係乗務員の連行

(1) 芸備入換(入換第三仕業)関係

三月一五日芸備入換(入換第三仕業)を担当のため、同日午前〇時広島第二機関区に出務すべき同区所属の機関士下条寿美雄および機関士出石正憲の両名は、同月一三日午後八時ころ芸備入換(入換第二仕業)の乗務を終え、同区において入浴をすませ身仕度を整えて帰宅の途上、同区構内にある原告組合広島地方本部事務所附近に差しかかつた際、前記ピケ隊所属の四・五名のピケ隊員にとり囲まれ、広島市内の荒神踏切附近まで連行され、原告組合役員らが手配した自動車に乗せられ、広島県労働会館三階の部屋に連行され、同三階廊下の入口扉に鍵をかけられ、その入口附近を前記ピケ隊所属の約二〇名のピケ隊員が監視し、翌翌一五日の午前四時過ぎころまで同館に軟禁された。

このため右乗務員両名は、その出務を阻止され、それぞれ四時間二〇分欠務したので、同区長岩本正市は同区所属の機関士田中詳三および機関助士玉田脩の両名を芸備入換(入換第三仕業)に代務として乗務させるのやむなきに至つた。

(2) 芸備入換(入換第六仕業)関係

同月一五日芸備入換(入換第六仕業)を担当するため、同日午前二時三〇分同区に出務すべき同区所属の機関士西岡豊昭および機関助士吉川和成の両名は、同月一三日午後一一時三〇分ころ客留入換(入換第五仕業)の乗務を終え同区において身仕度を整え、帰宅の準備をして同区の更衣室を出た際、前記ピケ隊所属の七名のピケ隊員に包囲され、衣服の一部を握られ、同地方本部事務所に連れ込まれた後、同ピケ隊員に包囲されたまま前記荒神踏切附近まで連行され、原告組合役員らが手配した自動車に乗せられ、前記労働会館に連行され、前項同様翌翌一五日午前四時過ぎころまで、同館に軟禁された。

このため右乗務員両名は、その出務を阻止され、それぞれ一時間五〇分欠務したので、同区長は同区所属の機関士吉井晴真および機関助士井本玉樹の両名を芸備入換(入換第六仕業)に代務して乗務させるのやむなきに至つた。

(3) 第五特急旅客列車関係

同月一五日第五特急旅客列車に乗務のため、同日午前三時三五分同区に出務すべき同区所属の機関士清水池登および機関助士丸山昭二の両名は、同月一四日午前五時四〇分ころ第五特急旅客列車の乗務を終え、同区において帰着点呼終了後、同区乗務員室を出た際、突然前記ピケ隊所属の十数名のピケ隊員によりとり囲まれ、原告組合役員らが手配した自動車に乗せられ、前記労働会館に連行され、前項同様翌一五日午前四時過ぎころまで同館に軟禁された。

このため右乗務員両名は、その出務を阻止され、それぞれ四五分間欠務し、所定の準備時間一時間のうち四五分間を省略して乗務するのやむなきに至つた。

(4) 第三三急行旅客列車関係

同月一五日第三三急行旅客列車に乗務のため、同日午前一時一分同区に出務すべき同区所属の機関士舛田信之および機関助士広沢均の両名は、同月一四日午前八時三〇分ころ、下り第三二九旅客列車の乗務を終え、同区において帰着点呼終了後衣服を着替え身仕度を整えて帰宅の途上、同区正門附近にさしかかつた際、前記ピケ隊所属の五、六名のピケ隊員にとり囲まれたので、右乗務員両名は明日勤務があるから帰してくれと再三抗議したにもかかわらず、原告組合役員らが手配した自動車に乗せられ、前記労働会館に連行され、前項同様翌一五日午前四時過ぎころまで同館に軟禁された。

このため右乗務員両名は、その出務を阻止され、それぞれ三時間一九分欠務したので、同区長は同区所属の機関士岡村正および機関助士今本昭典を第三三急行旅客列車に代務として乗務させるのやむなきに至つた。

(5) 第六一二旅客列車関係

同月一五日第六一二旅客列車の乗務のため、同日午前四時三分に出務すべき同区所属の機関士兼田光男は、同月一四日午前九時三〇分ころ第四五小荷物専用列車の乗務を終え、同区において帰着点呼終了後、同区事務室附近において、被告がかねて現地に派遣していた中国支社総務部人事課長広野恵夫および同労働課員梶川昭らから斗争に参加しないよう注意を受けたが、約二〇名のピケ隊員を背景とした組合役員らの説得監視の中で、原告馬場および同坂井外三名の組合役員に斗争に参加してくれといわれて腕をとられ、原告組合役員らが手配した自動車に乗せられ、前記労働会館に連行され、前項同様翌一五日午前四時過ぎころまで同館に軟禁された。

このため右乗務員は、その出務を阻止され、一七分間欠務し、所定の準備時間一時間のうち一七分間を省略して乗務するのやむなきに至つた。

(6) 客留入換(入換第九仕業)関係

同月一五日客留入換(入換第九仕業)を担当するため、同日午前四時一〇分同区に出務すべき、同区所属の機関士上野太士および機関助士阿賀俊彦は、一四日午前一〇時四五分ころ西方入換(入換第八仕業)の乗務を終え同区において帰着点呼終了後、右機関士上野太士は、同区事務室附近において原告馬場および同坂井らから、休暇斗争に参加するよう再三説得を受けたが、右乗務員はこれを聞き入れず、帰宅するため前記荒神踏切にさしかかつた際、前記ピケ隊所属の原告組合正明市機関区支部執行委員長山本輝雄外前記ピケ隊所属の三名のピケ隊員により原告組合役員らが手配した自動車に乗せられ、また右機関助士阿賀俊彦は、同日午前一〇時四五分ころ同区事務室附近において、前記ピケ隊所属の四、五名のピケ隊員に腕をとられ、同区正門附近まで連行され、原告組合役員らが手配した自動車に乗せられ、右両名は、それぞれ前記労働会館に移され、前項同様翌一五日午前四時過ぎころまで同館に軟禁された。

このため右乗務員両名は、その出務を阻止され、それぞれ一〇分間欠務し、所定準備時間一時間のうち一〇分間を省略して客留入換(入換第九仕業)の乗務をするのやむなきに至つた。

(7) 第八三四旅客列車関係

同月一五日第八三四旅客列車に乗務のため、同日午前四時一四分同区に出務すべき三次機関区所属機関士赤名国夫および機関助士山田憲の両名は、同月一四日午後七時四〇分ころ第八七五貨物列車の乗務を終え同区において、到着点呼終了後、同区食堂から同区休養室に向う途中、前記ピケ隊所属の約四〇名のピケ隊員にとり囲まれたので、右乗務員両名は、明日勤務があるから斗争に参加することはできない旨、抗議したにもかかわらず、そのうちの七、八名のピケ隊員に腕をとられ、前記荒神踏切附近まで連行され、原告組合役員らが手配した自動車に乗せられ、前記労働会館に移され、前項同様翌一五日午前四時過ぎころまで同館に軟禁された。

このため右乗務員両名は、その出務を阻止され、それぞれ二九分間欠務し、所定の準備時間一時間のうち二九分間を省略して、第八三四旅客列車に乗務するのやむなきに至つた。

(8) 第三五急行旅客列車関係

同月一五日第三五急行旅客列車に乗務のため同日午前一時三三分同区に出務すべき、柳井機関区徳山支区所属の機関士奈良貞健および機関助士坂本節次の両名は、同日午前一時三二分ころ同区に出務し、小郡鉄道公安室新堀秀夫ら約三〇名の鉄道公安職員に護衛され、広島駅に向う途中、広島第二機関区構内にある原告組合広島地方本部事務所前において、原告馬場が指揮する約二〇〇名のピケ隊員にとり囲まれ、もみ合いとなり、その結果同地方本部事務所に連れ込まれ、原告組合役員らが手配した自動車に乗せられ、前記労働会館に連行され、前項同様同日午前四時過ぎこまろで同館に軟禁された。

このため右乗務員両名は、その出務を阻止され、それぞれ二時間四七分欠務したので、同区長は、柳井機関区徳山支区所属の機関士押田唯男および機関助士伊藤嘉昌を第三五急行旅客列車に代務として乗務させるのやむなきに至つた。

(9) 第三二急行旅客列車関係

同月一五日第三二急行旅客列車に乗務のため、同日午前二時九分同区に出務すべき、糸崎機関区所属の機関士杉原康比古および機関助士金本孝昭の両名は、同日午前二時五分ころ同区に出務のため、同区休養室を出たところ、前記ピケ隊所属の数十名のピケ隊員にとり囲まれ、同地方本部事務所に連れ込まれたので、同乗務員らは再三出務したい旨申し出たが聞き入れられず、原告組合役員らが手配した自動車に乗せられ、前記労働会館に連行され、前項同様同日午前四時過ぎころまで同館に軟禁された。

このため右乗務員両名は、その出務を阻止され、それぞれ二時間一一分欠務したので、同区長は糸崎機関区所属の機関士平岡元三および広島第二機関区所属の機関助士新長清三を第三二急行旅客列車に代務として乗務させるのやむなきに至つた。

(10) 第八七四貨物列車関係

同月一五日第八七四貨物列車に乗務のため、同日午前二時一五分同区に出務すべき、三次機関区所属の機関士上土居政義および機関助士中山光之の両名は、同区に出務のため、同日午前二時一〇分ころ同区休養室を出たところ、前記ピケ隊所属の約四〇名のピケ隊員にとり囲まれ、同地方本部事務所に連れ込まれた後、原告組合役員らが手配した自動車に乗せられ、前記労働会館に連行され、前項同様同日午前四時過ぎころまで同館に軟禁された。

このため右乗務員両名は、その出務を阻止され、それぞれ二時間一五分欠務し、同列車はついに運転を休止するのやむなきに至つた。

(11) 第一一四旅客列車関係

同月一五日第一一四旅客列車に乗務のため、同日午前三時一五分同区に出務すべき糸崎機関区所属機関士河野道則および機関助士森山宏の両名は、同区に出務のため同日午前三時一五分ころ同区休養室を出たところ、前記ピケ隊員にとり囲まれ、同地方本部事務所に連行され、さらに原告組合役員らが手配した自動車に乗せられ、前記労働会館に移され、前項同様同日午前四時過ぎころまで同館に軟禁された。

このため右乗務員両名は、その出務を阻止され、それぞれ一時間五分欠務するのやむなきに至り、第一一四旅客列車の機関車の出区がおくれ、同列車は広島駅を三八分遅発するに至つた。

(12) 第三七急行旅客列車関係

同月一五日第三七急行旅客列車に乗務のため、同日午前三時五分同区に出務すべき柳井機関区徳山支区所属の機関士福田豊春および機関助士村田右二の両名は、同日午前三時二〇分ころ同区に出務べく同区休養室から出たところ、前記ピケ隊所属の約一〇〇名のピケ隊員に包囲された後、同地方本部事務所に連行され、原告組合役員らが手配した自動車に乗せられ、前記労働会館に移され、前項同様同日午前四時過ぎころまで同館に軟禁された。

このため右乗務員両名はその出務を阻止され、それぞれ五六分間欠務し、所定の準備時間一時間のうち五六分間を省略して第三七急行旅客列車に乗務するのやむなきに至つた。

2広島第一機関区関係乗務員の連行

三月一五日第三八急行旅客列車に乗務のため同日午前〇時三〇分広島第一機関区に出務すべき糸崎機関区所属の機関士山田忠行および機関助士小川卓士の両名は、同月一四日午後六時三〇分ころ第四三一旅客列車の乗務を終え同区において到着点呼終了後、同区事務室から広島市南蟹屋町所在の同区乗務員宿泊所へ向う途中、同事務室前附近においてピケ隊員約三〇名にとり囲まれ、自動車に乗せられ、広島市金屋町所在の広島県労働会館三階の部屋に連れ込まれ、そこに収容された。

そして、一五日午前〇時二五分ころ同乗務員らから広島第一機関区長室に電話があつたので、同区長後藤兼次は同区助役植野多助および広島駐在運輸長付岡田裕雄を同道し、労働会館三階へ赴いたが、三階廊下の入口扉が鎖錠されてあるため入室できないので、廊下から声をかけたところ、同入口附近の部屋や上下階段から前記ピケ隊員約二〇名が集まり、同区長らをとり囲んだ。同区長はピケ隊員らに対し右乗務員らを解放することおよび右乗務員らと面接することを要求したが、ピケ隊員らは「乗務員らはいない」と言つて入口扉を開けないので、引き返した。そして、同区所属機関士進藤勝登および機関助士弓場真作の両名を第三八急行旅客列車に代務として乗務せしめようとしていたところ、前記所定の乗務員両名が同一時二五分ころ解放されて出務したので、その代務を取り消し、所定の右乗務員両名を乗務させた。

このため右乗務員両名はそれぞれ五五分欠務し、所定の準備時間一時間のうち五五分間を省略して右列車に乗務するに至つた。

3広島駅における機関車乗務員の乗務妨害等

(1) 第三一急行旅客列車関係

三月一五日第三一急行旅客列車の所定機関車乗務員である柳井機関区徳山支区所属機関士清水登および機関助士岩井勇の両名は、同日午前一時五〇分ころ被告派遣の中国支社総務部労働課補佐村岡寛ら約二〇名の職員および小郡鉄道公安室河村百合雄ら約七〇名の鉄道公安職員の護衛のもとに同駅一番線に至り同列車に乗務しようとした際、前記ピケ隊所属のピケ隊員約八〇名は南側機関車乗降口附近に立ちふさがつてピケを張り、右乗務員らの乗車を阻止したので、鉄道公安職員らがこれを排除しようとしてもみ合となり、同乗務員らはしばらくして機関車に乗車することができた。

またピケ隊員らは同乗務員らに対し、乗継点検を特に入念に行なうよう要求し、これを監視しながら実施させ、通常の場合の乗継点検は、同列車の停車時分である五分以内において行なわれているのに、当日は必要以上に入念に行なわせられた。

そのため同列車は一九分遅延するに至つた。

(2) 第三三急行旅客列車関係

同日第三三急行旅客列車の所定乗務員が前記1(4)に記載したように連行せられたので、その代務乗務員に指定せられた広島第二機関区所属の機関士岡村正および機関助士今本昭典の両名は、同日午前二時一九分ころ被告派遣の中国支社総務労働課補佐村岡寛ら約一〇名の職員に付添われ、同駅一番線に至り右列車に乗務しようとした際、約八〇名のピケ隊員が右列車の機関車乗降口附近にスクラムを組んでピケを張り、同乗務員の乗務を阻止した。その際原告下田は、その場において右ピケ隊に助勢し、右機関士が気動車の運転士への転換教育を修了した直後であることを口実として、同乗務員の乗務に抗議して、その乗務を妨害した。被告の派遣員である前記村岡寛はピケ隊員らに対し、三回にわたり国鉄用地外への退去を口頭で要求したが、同人らはこれを聞き入れず、立退く気配がないので、同三時七分に至り、小郡鉄道公安室長河村百合雄ら約四〇名の鉄道公安職員がその排除に努めたが、右ピケ隊員は抵抗してピケを張りつづけていた。そこで被告派遣の中国支社営業部長山崎邦夫は、事態収拾のため広島駐在運輸長付難波勝好を同機関車に添乗させる措置を講じ、同列車は同三時四七分ようやく発車することができた。

そのため同列車は一時間二二分遅延するに至つた。

(3) 第三二二七旅客列車関係

同日午前二時二六分ころ第三二二七臨時旅客列車は、広島駅二番線に到着し機関車の付替え等の所定作業を終了して発車しようとしたが、同列車の先行列車である第三三急行旅客列車が前項でのべたとおり、原告下田を含むピケ隊員らの乗務阻止により発車できないままとなつていたので同列車も発車できなかつた。被告は第三二二七臨時旅客列車を先発せしめるよう運行順序を変更し、同二時五十三分同列車を先発させた。

このため同列車は二二分遅延するに至つた。

(4) 第三五急行旅客列車関係

同日午前三時二〇分ころ第三五急行旅客列車は、広島駅二番線で所定の措置が終了し発車しようとしたが、同列車の先行列車である第三三急行旅客列車が前記(2)でのべたとおり、原告下田らを含むピケ隊員らの乗務阻止により同三時四七分まで発車不能となつたので、第三五急行旅客列車は発車できず、第三三急行旅客列車の発車を待ち、同列車の発車につづいて同駅を出発した。

そのため、第三五急行旅客列車は二九分遅延するに至つた。

(5) 第三八急行旅客列車関係

同日第三八急行旅客列車の所定機関車乗務員である糸崎機関区所属機関士山田忠行および機関助士小川卓士の両名は、同日午前二時一八分ころ被告派遣の中国支社総務部人事課黒川肇ら一〇名の職員の護衛のもとに、同駅四番線に至り、同線に到着した右列車へ乗務しようとした際、原告組合の広島地方本部執行委員小池国松の指揮するピケ隊員約八〇名が右列車の機関車乗降口附近に立ちふさがつてピケを張り、同乗務員らの乗車を阻止したが、同二時二八分ころに至り、右乗務員両名はようやく乗車することができた。

また、ピケ隊員らは同乗務員らに対し乗継点検を入念に行なうよう要求し、これを監視しながら実施させ通常の乗継点検は同列車の停車時分である六分以内において行なわれているのに当日は必要以上に入念に行なわせられた。

そのため同列車は一九分遅延するに至つた。

(6) 第三六急行旅客列車関係

同日第三六急行旅客列車の所定機関車乗務員である糸崎機関区所属機関士藤井昇および機関助士宗重照雄の両名は、同日午前二時五九分ころ下関鉄道公安室長加藤英治ら約三〇名の鉄道公安職員の護衛のもとに、同駅四番線に至り、同線に到着した同列車へ乗車しようとした際、前記小池国松執行委員の指揮する約一〇〇名のピケ隊員が同列車の機関車乗降口附近にスクラムを組んでピケを張り、同乗務員らの乗車を阻止したが、右乗継乗務員らは同三時四分ころに至りようやく交代した。

またピケ隊員らは前項同様同乗務員らに対し乗継点検を入念に行なうよう要求し、これを監視しながら実施させ通常の乗継点検は、同列車の停車時分である五分以内において行なわれているのに当日は必要以上に入念に行なわせた。

そのため同列車は一三分遅延するに至つた。

(7) 第三二二八臨時旅客列車関係

同日午前二時一三分第三二二八臨時旅客列車は、広島駅五番線に定時に到着し、同二時三一分定時に発車しようとしたが、同列車の先行列車である第三八急行旅客列車および第三六急行旅客列車が前記(5)、(6)でのべたとおり小池国松執行委員の指揮するピケ隊員らの乗務阻止により発車できないままとなつていたので、同列車も発車できなかつた、

その後被告が第三二二八臨時旅客列車の運行順序を変更して同列車を先発させようとしたところ、小池国松執行委員の指揮するピケ隊員約二〇名は同駅で乗継乗車した糸崎機関区所属機関士沖中章および機関助士平田稲穂の両名に対し乗継点検を特に入念に行なうよう要求し、これを監視しながら実施させた。

そのため、同列車は三一分遅延するに至つた。

(8) 第三四急行旅客列車関係

同日第三四急行旅客列車の所定機関車乗務員である糸崎機関区所属機関士山口三郎および機関助士高垣忠常の両名は、同日午前三時一二分ころ下関鉄道公安室長加藤英治ら約一〇名の鉄道公安職員の護衛のもとに、同駅五番線に至り同線に到着した右列車へ乗車しようとした際、小池国松執行委員の指揮する約一二〇名のピケ隊員らが同列車の機関車乗降口附近に立ちふさがつてピケを張り、「正規の乗務員か」など申し立て、これを口実として乗務を阻止したが、右乗務員らはその後ようやく乗車することができた。

その後同ピケ隊員らは前項同様同乗務員らに対し乗継点検を特に入念に行なうよう要求し、これを監視しながら実施させ、通常の乗継点検は同列車の停車時分である六分以内において行なわれているのに当日は必要以上に入念に行なわせた。

そのため、同列車は一四分遅延するに至つた。

(9) 第三二急行旅客列車関係

同日第三二急行旅客列車の代務乗務員である糸崎機関区所属機関士平岡元三および広島第二機関区所属機関助士新長清三の両名は、同日午前三時三二分ころ被告派遣の中国支社総務部人事課安川博ら約一〇名の職員に付き添われ、同駅四番線に至り、同線に到着した右列車へ乗務しようとした際、小池国松執行委員の指揮するピケ隊員約一〇〇名が右列車の機関車乗降口附近に立ちふさがつてピケを張り、所定の乗務員でないことなど申し立て、これを口実として右乗務員の乗車を阻止した。同四時五分ころ中央での交渉が妥結した情報を入手した前記派遣員安川博が現地で指導中の原告馬場に対し、この旨を告げピケを解くよう警告したにもかかわらず、これを聞き入れず、同四時二一分ころまでその妨害を継続した。

このため同列車は四三分遅延するに至つた。

五本件解雇の効力

以上認定した本件争議行為の実状と原告ら一二名の行為に、前説示したところに従い、公労法第一七条第一項および第一八条を適用すれば、本件解雇の効力は、次のとおりとなる。

(一)  本件争議行為の評価

本件斗争の内容は、原告組合が旭川地本(旭川支部)、青函地本(長万部支部)、盛岡地本(青森支部)、水戸地本(水戸支部)、静岡地本(浜松支部)、天王寺地本(奈良気動車区支部)、四国地本(高松支部)、広島地本(広島第二支部)、鹿児島地本(鹿児島支部)および新潟地本(新潟支部)の一〇か所を拠点として、三月一五日午前〇時から同九時まで乗務員を中心とする一〇割休暇斗争の実力行使を実施することである。右斗争の結果、一〇拠点のうちの四拠点である旭川、水戸、浜松、広島第二各機関区関係における三月一五日午前〇時から午前四時ころまでの実状だけによつても、運休したものは、貨物列車が一三本、単行機関車が一本、遅延したものは、旅客列車が二三本で、遅延最長時間は二時間三一分、貨物列車が一四本で遅延最長時間は四時間三〇分、荷物列車が一本で遅延時間一時間五九分、原告組合によつて斗争への参加を説得され連行されたため、乗務または出務すべき時間帯に欠務した乗務員が一〇二名で、最長欠務時間は一〇時間一八分である。

拠点とされた一〇支部の属する機関区は、当時のわが国の主要幹線である東海道本線、東北本線、山陽本線、函館本線、常磐線等の列車運行を担当する機関区であり、しかも当該線においては、いずれも最も重要な機関区に数えられるものばかりである。これによつてみれば、本件斗争は、全国的規模において行なわれたものであり、当時におけるわが国の最重要幹線における列車の運行を、三月一五日午前〇時から九時まで、一〇拠点において阻害しようとするものである。そして現実の斗争は午前四時ころまでに打ち切られたものの、多数の列車が運休し、または遅延した。しかも、これら運転を阻止または遅延させられた列車は、いずれも深夜に幹線を運行するものであるから、長距離急行列車のような重要な列車が大部分を占めたものと推認される。そして、先に述べたような国鉄輸送の連鎖性という特殊事情を考慮すれば、運休または遅延した右時間帯の列車の運行阻害の影響は、当該地点のその列車に留まらず、他地点における後続列車や接続列車にも広く悪影響を及ぼしているものと推認されるのである。そうすると、本件斗争は、相当な時間にわたつて、全国的規模で行なわれたものであり、かつ主要幹線における列車の運行を著しく阻害するものであるから、公労法第一七条第一項前段にいう公共企業体たる被告の業務の正常な運営を阻害する行為に該当するものといわなければならない。

なお、本件斗争は、休暇斗争の形式を踏んでいるけれども、原告組合の指令によつて、集中的に多数の組合員に休暇届を提出させ、被告側に時季変更の抗弁についての時間的余裕を与えず、しかも時季変更または業務の阻害を理由に不承認とされても、これに従わず、原告の組合員たる乗務員は、三月一五日はともかく勤務につかず、業務の正常な運営を妨げようとするものである。したがつて、これは争議行為に該当するものであつて、違法性を阻却しない。

原告らの行為のうち、ピケを張つて乗務員の乗務を阻止し、機関車に乗り込んで乗務員に降車を説得し、または被告職員の業務の執行を実力をもつて妨害した行為は、争議行為に際し、違法な手段または方法によつて列車の正常な運行を阻害する結果を招来するおそれのあるものであるから、それ自体公労法第一七条第一項前段にいう被告の業務の正常な運営を阻害する行為に該当する。

原告らの行為のうち、中央組織部長会議または各地本斗争委員会等において、協議のうえ本件争議行為を企画決定した行為は、原告らが特にその決定に反対したとの反証のない限り、本件争議行為を敢行するため、原告らが共同意思のもとに一体となつて、互いに他人の行為を利用して、本件争議行為を実施するという各自の意思を実行に移すことを内容とする謀議をしたものであるから、本件争議行為の共謀として、同項後段の共謀に該当する。

原告らの行為のうち、本件争議行為を指令し、総決起集会において激励演説をして組合員に斗争への参加を呼びかけ、オルグとなつて組合員に休暇申請書の提出を促し、または説得活動により乗務を放棄させた等の行為は、本件争議行為を実行させる目的をもつて、組合員に対し、その行為を実行する決意を新たに生じさせ、またはすでに生じている本件争議行為実行の決意を助長させる行為であるから、本件争議行為をそそのかし、またはあおつたものとして、同項後段のそそのかし、若しくはあおつたものに該当する。

(二)  原告組合を除くその余の原告らの責任

1 原告八鍬

原告八鍬が第三四回中央委員会(一月一九日)、北海道常任評議委員会(三月四日)、全国組織部長会議(三月六日)、旭川地本拡大斗争委員会(三月一一日)、旭川地本戦術委員会(三月一四日)に出席して、本件争議行為の企画実行を協議決定したことは、本件争議行為の共謀に該当する。同原告が数十名の組合員を指揮して乗務員の説得激励のためデモ行進を行なつたこと(三月一四日)および激励大会において演説をしたこと(三月一四日)は、本件争議行為のあおりまたはそそのかしに該当する。

2 原告惣田

原告惣田が第二二〇九急行旅客列車の機関車運転室に乗り込み、乗務員に降車するよう説得し、また第二〇九急行旅客列車に乗り込み、乗務員を説得して降車させた行為(いずれも三月一五日)は、被告の業務の正常な運営を阻害する行為として、本件争議行為の実行に該当する。同原告が第三四回中央委員会(一月一九日)、全国組織部長会議(三月六日)、中央斗争委員会(三月七日)、水戸地本斗争委員会(三月八日)、関東ブロック拡大戦術会議(三月一三日)に出席して、本件争議行為の企画実行を協議決定したことは、本件争議行為の共謀に該当する。同原告が水戸地本に指令第六号を口頭で伝達した行為は、本件争議行為のあおりまたは、そそのかしに該当する。

3 原告新妻

原告新妻が全国組織部長会議(三月六日)、水戸地本斗争委員会(三月八日)、関東ブロック拡大戦術会議(三月一三日)に出席して、本件争議行為の企面実行を協議決定したことは、本件争議行為の共謀に該当する。同原告が傘下各支部に本件一〇割休暇斗争の指令を発し、またその支援を要請したこと、および総決起大会において激励演説をしたこと(三月一三日)は、本件争議行為のあおりまたはそそのかしに該当する。

4 原告関

原告関が水戸地本斗争委員会(三月八日)、関東ブロック拡大戦術会議(三月一三日)に出席して、本件争議行為の企画実行を協議決定したことは、本件争議行為の共謀に該当する。同原告が「組合員各位に告ぐ」という文書を掲示したこと(三月一〇日)、総決起大会を開催したこと(三月一三日)、乗務員に対し休暇申請書の提出を促したことは、本件争議行為のあおりまたはそそのかしに該当する。

5 原告荘司

原告荘司が第二二〇九急行旅客列車の機関車運転室に乗り込み乗務員に降車するよう説得し、また第二〇九急行旅客列車に乗り込み乗務員を説得して降車させた行為(いずれも三月一五日)および外岡元固に対する暴行は、被告の業務の正常な運営を阻害する行為として、本件争議行為の実行に該当する。同原告が乗務員を説得して連行した行為(水戸地区1の(2)、(3)、(5)、(7))は、本件争議行為のあおりまたはそそのかしに該当する。

6 原告中江

原告中江が、暴力をもつて井口久男助役の業務命令書の交付を妨害した行為は、被告の業務の正常な運営を阻害する行為として、本件争議行為の実行に該当する。同原告が第三四回中央委員会(一月一九日)、全国組織部長会議(三月六日)、中央斗争委員会(三月七日)、戦術会議(三月一四日)に出席して、本件争議行為の企画実行を協議決定したことは、本件争議行為の共謀に該当する。同原告が指令第六号を静岡地本に口頭で伝達した行為および乗務員を説得して連行した行為(浜松地区1の(1)、(3))は、本件争議行為のあおりまたはそそのかしに該当する。

7 原告加藤

原告加藤が全国組織部長会議(三月六日)、静岡地本拡大斗争委員会(三月七日)、戦術会議(三月一四日)に出席して、本件争議行為の企画実行を協議決定したことは、本件争議行為の共謀に該当する。同原告が静岡地本斗争委員長として、傘下各支部に本件争議行為の実施と支援を指令したことは、本件争議行為のあおりまたはそそのかしに該当する。

8 原告赤堀

原告赤堀が松島旅館を包囲して乗務員の出務を妨げた行為は、被告の業務の正常な運営を阻害する行為として、本件争議行為の実行に該当する。同原告が静岡地本拡大斗争委員会(三月七日)、戦術会議(三月一四日)および浜松支部拡大斗争委員会に出席して本件争議行為の企画実行を協議決定したことは、本件争議行為の共謀に該当する。同原告がオルグとなつて組合員を説得して本件斗争への参加を呼びかけ、また各組合員から休暇申請書の提出を求めた行為および乗務員を説得して連行した行為(浜松地区1の(1))は、本件争議行為のあおりまたはそそのかしに該当する。

9 原告竹森

原告竹森が実力を行使して第一五八貨物列車、第三五二貨物列車および第一三一一旅客列車の発車を妨害した行為(浜松地区2の(1)、(2))は、被告の業務の正常な運営を阻害する行為として、本件争議行為の実行に該当する。同原告が多数の組合員を指揮してホームの上などで気勢をあげ、また横断幕等をはつた行為は、本件争議行為のあおりまたはそそのかしに該当する。

10 原告馬場

原告馬場が第三四回中央委員会(一月一九日)、全国組織部長会議(三月六日)、中央斗争委員会(三月七日)、広島地本代表者会議(三月九日)、広二支部斗争委員会(三月一〇日)、広島地本斗争委員会および同戦術委員会(三月一〇日)に出席して、本件争議行為の企画実行を協議決定したことは、本件争議行為の共謀に該当する。同原告が広島地本に対し口頭で一〇割休暇斗争の実施を指令したこと、総決起集会(三月一四日)において激励演説を行ない、斗争宣言の号令を発したことおよび乗務員を説得して連行したこと(広島地区1の(5)、(6)、(8))は、本件争議行為のあおりまたはそそのかしに該当する。

11 原告下田

原告下田がピケ隊とともに第三三急行旅客列車の乗務員の乗務を阻止したことは、被告の業務の正常な運営を阻害する行為として、本件争議行為の実行に該当する。同原告が全国組織部長会議(三月六日)、広島地本代表者会議(三月九日)、広二支部斗争委員会(三月一〇日)、広島地本斗争委員会および同戦術委員会(三月一〇日)に出席して、本件争議行為の企画実行を協議決定したことは、本件争議行為の共謀に該当する。同原告が総決起集会(三月一四日)において激励演説を行ない、斗争宣言を発したことは、本件争議行為のあおりまたはそそのかしに該当する。

11 原告坂井原告

坂井が広島地本代表者会議(三月九日)、広二支部斗争委員会(三月一〇日)、広島地本斗争委員会および同戦術会議(三月一〇日)に出席して、本件争議行為の企画実行を協議決定したことは、本件争議行為の共謀に該当する。同原告が組合員に斗争参加を説得して休暇申請書の提出を促したこと、広二支部臨時乗務員集会(三月一一日)および職場集会(三月一二日)に出席して、組合員たる乗務員に本件斗争への参加を呼びかけたこと、約一〇〇名の組合員を指揮してデモ行進を行なつたこと(三月一四日)、乗務員を説得して連行したこと(広島地区1の(5)、(6))は、本件争議行為のあおりまたはそそのかしに該当する。

13 要約

以上のとおり本件争議行為は、公労法第一七条第一項前段に該当する違法な争議行為である。そして、原告組合を除くその余の原告らは、いずれも原告組合の幹部として、この違法争議行為を企画、実行または指導したものであり、原告ら各自の行為は、同項に規定する違法争議行為の実行、共謀、そそのかしまたはあおり行為に該当する。そうすると、原告らの行為は、右規定に違反するから、原告らは、同法第一八条によつて解雇されてもやむを得ないことになる。

(三)  再抗弁についての判断

1 解雇権濫用の主張について

公労法第一八条は、公労法第一七条第一項違反の争議行為をした職員を一律に解雇することを規定したものではなく、解雇するかどうかは職員の違法行為の態様、程度等に応じ合理的な裁量に基づいて決すべきものとする趣旨を規定したことは、前記のとおりである。しかし、原告ら一二名は、いずれも原告組合の幹部として、本件争議行為の企画、決定または実行について、指導的な役割を演じ、その行為の態様、程度、性質等が前認定のとおりであるからには、原告ら各自について特段にしやく量すべき事情が認められない限り、本件解雇を権利の濫用と目することはできない。このような事情については、立証がない。本件争議行為が規模、態様からみて公労法第一七条第一項の争議行為に該当する限り、原告ら主張の本件争議行為の目的の正当性は、本件解雇を権利の濫用とする資料としては無力である。

2 不当労働行為の主張について

原告ら一二名が解雇通告当時、別紙第一記載のとおりの原告組合の役職にあつたことは、当事者間に争いなく、また原告ら一二名の原告組合における役職歴等は前認定のとおりである。これによれば、右原告らは、いずれも活発な組合活動をしていたものと推認される。しかし、本件解雇が右原告らの組合活動を嫌悪したためなされたことを認めるに足りる証拠はない。

よつて、再抗弁は採用に値しない。

(四)  雇用契約の消滅

そうすると、本件解雇は有効であるから、原告ら一二名と被告との間の雇用契約は、前記解雇の意思表示がなされた日にそれぞれ消滅したものといわなければならない。したがつて、同原告ら一二名と被告との間に雇用契約が存在することを前提とする同原告らの請求は理由がないことになる。

第三結論

よつて、原告組合の訴えは不適法であるから却下し、その余の原告ら一二名の請求はいずれも失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(岩村弘雄 小笠原昭夫 石井健吾)

(別紙第一) 原告らの役職名

(氏名)    (役職名)

惣田清一 国鉄動力車労働組合中央執行委員

馬場義治 右同

中江昌夫 右同

八鍬重一 国鉄動力車労働組合旭川地方本部書記長

荘司悦郎 国鉄動力車労働組合東京地方本部執行委員

新妻義武 国鉄動力車労働組合水戸地方本部執行委員長

関昇 国鉄動力車労働組合水戸地方本部水戸支部執行委員長

竹森彦左衛門 国鉄動力車労働組合北陸地方本部執行委員長

加藤正 国鉄動力車労働組合静岡地方本部執行委員長

赤堀時男 国鉄動力車労働組合静岡地方本部浜松支部執行委員長

下田君人 国鉄動力車労働組合広島地方本部執行委員長

坂井博 国鉄動力車労働組合広島地方本部広島第二支部執行委員長

(別紙第二) 解雇理由

(別紙第三) 解雇理由に対する認否

(別紙第四) 昭和三六年三月一五日原告組合と被告との間に締結された合理化に関する諸協定

〈以上省略〉

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